北里大学病院医療過誤裁判 東京地裁から最高裁まで

北里大学病院整形外科における正当性のない不要な右膝切開術に因る重篤な後遺障害、人体実験的行為、非人道的行為に対する最高裁判所の前代未聞の重大な事実誤認及び重大な誤判確定

北里大学病院医療過誤裁判 東京地裁から最高裁まで 第Ⅲ章ー2

北里大学病院医療過誤裁判 東京地裁から最高裁まで 第Ⅲ章ー1に引き続き、上告受理申立理由書(平成27年9月6日付)の第Ⅳ部以降、上告理由書(平成27年9月6日付)等について記載したいと思う。
第Ⅳ部 再審事由
 原判決には、判決に影響を及ぼすべき重要な事項について判断を遺脱した違法があり、判断の遺脱によって、審理の尽くされていない部分が存在することになり、その部分についての判断が欠けることになるので、理由不備の違法がある。
 また、UK医師の虚偽証言が判決の証拠となり、偽証部分は右膝障害の結果について直接言及していることから原判決の結論に影響を及ぼすものである。
 これらの違法は、原判決の結論に影響を及ぼすことが明らかである(民訴法338条1項7、9号、民訴法325条2項)。
第1章 判断の遺脱(1)
第1 判決に影響を及ぼすべき重要な事項について判断の遺脱があること
 本件病院入院後、「MRSA関節炎」に罹患し、本件病院入院時、「MRSA関節炎」に罹患していなかった主要事実は判決に影響を及ぼすべき重要な事項である。これらについて判断の遺脱がある。よって、上告受理を求める(上告受理申立て理由10)。
第2 原判決の問題
 原審は、新たに提出した証拠に基づく主張について、何らの判断も加えないで、申立人の請求を棄却した。
第3 申立人が原審(控訴審)にて新たに証拠を提出した経緯
1.原審(一審)は、2009年06月分診断群分類決定票の「後発疾患MRSA関節炎」及び平成21年6月レセプト傷病情報に、「入院後発症傷病名MRSA関節炎」と記載がある甲A27号証及び甲A55号証について、同号証の証明力を否定するに足りる特段の事由がない限り同号証の証明力を否定することは許されないところ、かかる特段の事由を認定することなく同号証をいずれも排斥し、証拠として採用しなかった(一審判決29頁)。
2.そこで、申立人は、レセプトの「入院後発症傷病名」の定義を記載した書証である厚生労働省保険局医療課作成の「DPC/PDPS傷病名コーディングテキスト」及び「入院医療のための保険診療ガイド」を証拠として原審(控訴審)にて新たに提出した(甲B164号証、甲B165号証)。
 甲B164号証及び甲B165号証には、「入院後発症傷病名」とは、「入院後に発症した傷病名であり入院時にはなかった傷病名である。」ことが記載されている。
 申立人は、本件病院入院後、「MRSA関節炎」に罹患し、本件病院入院時、「MRSA関節炎」に罹患していなかった主要事実を再度主張した(平成27年4月29日付控訴理由書42~43頁)。
3.これについて、原判決は何らの判断をすることなく結論に至った。
 また、甲A27号証、甲A55号証、甲B164号証及び甲B165号証の評価は、訴訟の勝敗を決する重要なものであり、同号証の証明力を否定するに足りる特段の事由がない限り同号証の証明力を否定することは許されないところ、かかる特段の事由を認定・説示することなく同号証を全て排斥した。これは民訴法253条1項3号違反である。さらに、同号証を全て排斥したことは、採証法則に反し、民訴法247条違反である。
第4 申立人(控訴人)の新たな証拠の提出による主張に対する相手方(被控訴人)の明白な答弁がないこと
1.本件病院入院後、「MRSA関節炎」に罹患し、本件病院入院時、「MRSA関節炎」に罹患していなかったことを証明する新たな証拠を提出し、これに基づいて申立人(同上)が主張した主要事実に対し、相手方(同上)は明白な答弁をしていない。これは民訴規則79条3項違反である。
2.また、明白な答弁をしていないことにより、擬制自白が成立する(民訴法159条1項)。上告審は、原審で適法に確定した事実に拘束されるから、擬制自白に当然拘束される(民訴法321条1項)。
3.なお、相手方(同上)が明白に答弁をしないことについて、原審は、釈明権を行使してこれを促すべきであったところ、これを怠った違法がある(民訴法149条)。
第5 小括
 以上のことから、本件病院入院時MRSA関節炎に罹患しておらず、かつ本件病院入院後MRSA関節炎に罹患した主要事実は、判決に影響を及ぼすべき重要な事項であり、これについて判断を遺脱した違法がある。この違法は、原判決に影響を及ぼすことが明らかである。よって、原判決は、民訴法325条2項に基づき破棄されるべきである。
第2章 判断の遺脱(2)
第1 判決に影響を及ぼすべき重要な事項について判断の遺脱があること
 MRSA感染症を確実に治癒するためには、TDM(薬物動態解析報告書)を適切に実施することである。
バンコマイシン投与によるMRSA関節炎の有効率は、「100%」であり、MRSA骨髄炎のそれは「81.4%又85.7%」である(甲B66号証、甲B54号証)。
 TDMの重要な要素である「採血時刻(トラフ値測定)」に関する主要事実は、判決に影響を及ぼすべき重要な事項である。これについて判断の遺脱がある。よって、上告受理を求める(上告受理申立て理由11)。
第2 原判決の問題
 原審は、新たに提出した証拠に基づく主張について判断することなく、申立人の請求を棄却した。
第3 申立人が原審(控訴審)にて新たに証拠を提出した経緯
1.原審(一審)は、「TDMのための採血が午前6時30分に実施されたと認めるに足りる証拠はない。」と認定した(一審判決40頁)。
2.そこで、申立人は、TDMのための採血が午前6時30分頃実施されたことを証明する証拠となる書証、「整形外科病棟の日程表」を原審(控訴審)にて新たに提出した(甲A99号証の1~2)。
3.5月18日TDMに、「血中濃度12.5(投与前)」と記載がある(乙A1号証の97頁)。TDMには「投与前」と記載があるが、採血時刻が「6時30分頃」であったことから、「投与後」である。
要するに、血中濃度「12.5μg/ml」とあるのは、「投与前」の「トラフ値」ではなく「投与後」の「ピーク値」である。
ピーク値が「12.5μg/ml」では全く奏功しないことから、TDMは不適切である主要事実を再度主張した(平成27年4月29日付控訴理由書55~56頁)。
4.これについて、原判決は判断することなく結論に至った。
第4 申立人(控訴人)の新たな証拠の提出による主張に対する相手方(被控訴人)の明白な答弁がないこと
1.5月18日TDMの採血時刻が「6時30分頃」であったことを証明する新たな証拠を提出し、これに基づいて申立人(同上)は、TDMは不適切である主要事実を主張したことに対し、相手方(同上)は明白な答弁をしていない。これは民訴規則79条3項違反である。
2.また、明白な答弁をしないことにより、擬制自白が成立する(民訴法159条1項)。上告審は、原審で適法に確定した事実に拘束されるから、擬制自白に当然拘束される(民訴法321条1項)。
3.なお、相手方(同上)が明白に答弁をしないことについて、原審は、釈明権を行使してこれを促すべきであったところ、これを怠った違法がある(民訴訟149条)。
第5 TDMについて
1.TDM実施にあたり、目標濃度域は重要な要素である。すなわち、「標的組織」を正確に把握することが重要である。申立人が「5月18日骨髄炎に罹患している」ことは、5月14日撮影の右膝造影MRI検査から明らかである(甲A60号証の1~4)。
2.ところで、原審(一審)は、「原告が5月18日時点で骨髄炎を発症していたと認めるに足りる証拠はなく、」と認定している(一審判決40頁)。
3.しかし、「5月14日撮影の右膝造影MRI画像」(甲A60号証の1~4)から、「5月18日時点で骨髄炎を発症していた」事実がある。右膝造影MRI画像の証明力を否定するに足りる特段の事由がない限り、同号証(甲A60号証の1~4)の証明力を否定することは許されない。
 よって、5月14日撮影の右膝造影MRI画像から、5月18日「骨髄炎」に罹患している事実と異なる事実認定は、経験則に反する(民訴法247条)。
 なお、湘南東部総合病院整形外科NH医師は診断書に、「右化膿性膝関節炎(MRSA)骨髄炎」と明記し、6月17日に申立人に同病名を告げた旨を同診断書に記載した(甲A78号証)。
本件病院でMRSA骨髄炎に罹患し、これが治癒しなかったことから、「5月18日時点で骨髄炎を発症していた」事実は明らかであることを念のために記載する。
4.5月18日骨髄炎罹患を事実認定していないかまたはこれを否定した一審判決を是認した原判決の認定判断には、経験則に反する違法がある(民訴法247条)。
5.「5月18日骨髄炎罹患の事実認定」に違法があり(民訴法247条)、また、「整形外科病棟の日程表」を証拠として採用せず、「投与後のピーク値」を「投与前のトラフ値」と認定し、「バンコマイシンの投与について不適切な点は認められない」とした原審の判断には、採証法則に反する違法がある(民訴法247条)。
6.要するに、違法な認定判断に基づきながら、さらに、事実認定の違法があり、これらを前提としたうえで、原判決が「バンコマイシンの投与について不適切な点は認められないことは前記引用部分で説示のとおりであるから、控訴人の当該主張は採用することはできない」と認定判断しているのであるから、この判断にも違法があるというべきである(原判決6頁)。
その結果、審理の尽くされていない部分が存在することになり、その部分に対する判断が欠けることになるので、理由不備の違法がある。
第6 小括
 以上のことから、MRSA骨髄炎の治療に対し、TDMの重要な要素である「採血時刻(トラフ値測定)」に関する主要事実は判決に影響を及ぼすべき重要な事項であり、これについて判断を遺脱した違法がある。この違法は、原判決に影響を及ぼすことが明らかである。よって、原判決は、民訴法325条2項に基づき破棄されるべきである。
第3章 判断の遺脱(3)
第1 判決に影響を及ぼすべき重要な事項について判断の遺脱があること
 本件第2手術説明同意書が偽造された主要事実は判決に影響を及ぼすべき重要な事項である。これについて判断の遺脱がある。よって、上告受理を求める(上告受理申立て理由12)。
第2 原判決の問題
 原審は、新たな主張に基づく事実について判断することなく、申立人の請求を棄却した。
第3 申立人が原審(控訴審)にて新たにした主張の経緯
1.原審(一審)は、「本件第2手術説明同意書が偽造されたものということはできない。」と認定し、その根拠を「本件病院における説明同意書が複写式でなく、別々に署名されたことが認められる。」と認定した(一審判決46頁)。
2.そこで、申立人は、本件病院の手術説明同意書は「複写式」であることを証明するために、本件病院の手術説明同意書及び説明同意書を提出した上でこれらが「複写式」であることを主張し、また、説明同意書とは社会通念上、「複写式」であるという経験則があること等を主張した(甲A39号証、甲A41号証、甲A67号証、甲A96号証)(平成27年4月29日付控訴理由書81~82頁)。
3.これについて、原判決は何らの判断をすることなく結論に至った。
第4 申立人(控訴人)の新たな主張に対する相手方(被控訴人)の明白な答弁がないこと
1.申立人(同上)の新たな主張に対し、相手方(同上)は、理由を記載せず明白な答弁をしていない。これは民訴規則79条3項違反である。
2.また、理由を記載せず明白な答弁をしないことにより、擬制自白が成立する(民訴法159条1項)。上告審は、原審で適法に確定した事実に拘束されるから、擬制自白に当然拘束される(民訴法321条1項)。
3.なお、相手方(同上)が理由を記載せず明白に答弁しないことについて、原審は、釈明権を行使してこれを促すべきであったところ、これを怠った違法がある(民訴法149条)。
第5 「本件第2手術説明同意書」(乙A1号証の57頁)は、偽造文書であること
1.私文書の成立の真正が確定されるのは、本人またはその代理人の署名または捺印が存在している場合であり、この場合に限られる(民訴法228条4項)。
本人またはその代理人の署名または捺印が存在しない文書には、民訴法228条4項の適用はない。
2.申立人が所有している「本件第2手術説明同意書の原本」には、署名及び拇印がない(甲A38号証)。
よって、署名及び拇印のない「本件第2手術説明同意書の原本」(甲A38号証)の成立の真正を推定することは、民訴法228条4項違反である。
したがって、「本件第2手術説明同意書」(乙A1号証の57頁)は偽造されたものである。
3.申立人は、「本件第2手術説明同意書」(乙A1号証の57頁)が偽造文書であることを書証否認等理由書に理由を明示しこれを主張した(平成26年6月16日付、平成26年11月27日付)(民訴規則145条)。
第6 小括
 本件第2手術において、一切の説明なく大腿骨内側顆約5cm切開を新たに加えた。
 また、A/S(関節鏡視下手術)での治療はしない方針であると証言したUK医師が本件第2手術において関節鏡を使用し、本件第2手術直後から持続洗浄を実施しなかったことに因る生命存続の危機に関わる等相当の問題がある。
 さらに、本件第2手術説明同意書(乙A1号証の57頁)が「偽造文書」である主要事実は、判決に影響を及ぼすべき重要な事項であり、これについて判断を遺脱した違法がある。この違法は、原判決に影響を及ぼすことが明らかである。よって、原判決は、民訴法325条2項に基づき破棄されるべきである。
第4章 判断の遺脱(4)
第1 判決に影響を及ぼすべき重要な事項について判断の遺脱があること
 申立人がVRSA(バンコマイシン耐性黄色ブドウ球菌)患者になった主要事実は判決に影響を及ぼすべき重要な事項である。これについて判断の遺脱がある。よって、上告受理を求める(上告受理申立て理由13)。
第2 原判決の問題
 申立人は、原審(一審)が事実摘示に、「VRSA患者」になったというきわめて重大な事実を記載していないことを指摘し、これを主張した(平成27年4月29日付控訴理由書3頁)。
 ところが、原審(控訴審)は、申立人の再度の主張にもかかわらず、「VRSA患者」になったというきわめて重大な事実について事実摘示しておらず、かつ「VRSA患者」になった主要事実の主張に対し、何ら判断をすることなく、申立人の請求を棄却した。
第3 申立人(控訴人)の主張に対する相手方(被控訴人)の答弁がないこと
1.申立人(同上)の主張に対し、相手方(同上)は、答弁をしていない。これは、民訴規則79条3項違反である。
2.相手方(同上)が答弁をしていないことにより、擬制自白が成立する(民訴法159条1項)。上告審は、原審で適法に確定した事実に拘束されるから、擬制自白に当然拘束される(民訴法321条1項)。
3.なお、相手方(同上)が答弁をしないことについて、原審は、釈明権を行使してこれを促すべきであったところ、これを怠った違法がある(民訴法149条)。
第4 「VRSA」患者になった事実
1.平成21年8月27日、湘南東部総合病院整形外科NH医師は、主治医意見書に、「右膝感染悪化の可能性あり。膝 MRSA 感染有り」と記載した(甲A4号証)。
2.平成24年7月4日、感染症専門医 FT医師(市立堺病院総合内科、京都大学医学部臨床教授)は、「全ての抗MRSA薬は奏功せず使用不可能な状態にあります。右膝MRSA感染症に対する治療は一切できません。右膝関節内にMRSAが常在・休眠している病態にあります。いつでも右膝MRSA感染再燃悪化する可能性があります。」と診断し、申立人は、「VRSA患者」であることを示唆した(甲A89号証)。
3.平成24年7月30日、関東労災病院整形外科TK医師は、本件病院での抗菌薬投与歴及び6月10日本件病院撮影の右膝レントゲン画像を確認した後、「全ての抗MRSA薬は奏功せず使用不可能である。右膝MRSA感染症に対する治療は一切不可能な病態にある。右膝関節内にMRSAが常在・休眠している病態にある。いつでも右膝MRSA感染再燃悪化する可能性があり、その際、骨切り固定術又は切断を考慮するが当院(関東労災病院)では引き受けることは出来ない。」と診断し、申立人は、「VRSA患者」であることを示唆した(甲A90号証)。
第5 小括
 以上のことから、「VRSA」患者になった主要事実は、判決に影響を及ぼすべき重要な事項であり、これについて判断を遺脱した違法がある。この違法は、原判決に影響を及ぼすことが明らかである。よって、原判決は、民訴法325条2項に基づき破棄されるべきである。
第5章 判断の遺脱(5)
第1 判決に影響を及ぼすべき重要な事項について判断の遺脱があること
 HN医師が申立人の自己決定権を侵害し、転医先を「相模台病院精神科閉鎖病棟」又は「相模台病院精神科」と決定し、また、「右膝MRSA感染中であること及びバンコマイシン継続投与の必要性があること」を説明せず、さらに、診療情報提供書に、「右膝MRSA感染中であること及びバンコマイシン継続投与の必要性があること」について一切記載をせず、転医先に対し申立人の病状及び必要な治療について十分な情報を提供しなかった説明義務違反及び転医義務違反があり、その上、UK医師がこれを黙認した主要事実は判決に影響を及ぼすべき重要な事項である。これについて判断の遺脱がある。よって、上告受理を求める(上告受理申立て理由14)。
第2 原判決の問題
 原審は、HN医師が申立人の自己決定権を侵害し、右膝MRSA感染治療には不適切な医療機関・診療科を転医先と決定し、診療情報提供書に正確な病状・必要な治療法を一切記載せず、十分な情報を提供しなかった注意義務違反及び転医義務違反に関する主要事実の主張に対し何ら判断をすることなく、申立人の請求を棄却した。
第3 申立人(控訴人)の主張に対する相手方(被控訴人)の答弁がないこと
1.申立人(同上)の主張に対し、相手方(同上)は、答弁をしていない。これは、民訴規則79条3項違反である。
2.相手方(同上)が答弁をしていないことにより、擬制自白が成立する(民訴法159条1項)。上告審は、原審で適法に確定した事実に拘束されるから、擬制自白に当然拘束される(民訴法321条1項)。
3.なお、相手方(同上)が答弁をしないことについて、原審は、釈明権を行使してこれを促すべきであったところ、これを怠った違法がある(民訴法149条)。
第4 説明義務違反及び転医義務違反があること
1.憲法13条違反
(1)HN医師が転医先を相模台病院精神科閉鎖病棟又は相模台病院精神科としたことについて、申立人が強く拒否の意思表示をしたにもかかわらずこれを無視して決定した。これは自己決定権の侵害であり憲法13条違反である。
(2)転医に際し、本件病院医師らは、申立人にMRSA感染中であること及びバンコマイシン継続投与の必要性を説明しなかった。説明義務違反である。これは憲法13条違反である。
2.転医義務違反
 本件病院医師らは、転医先である湘南東部総合病院整形外科に対し、申立人の病状及び必要な治療方法について十分な情報を提供することなく転医させた。これは、転医義務違反である。
診療情報提供書には、「右膝MRSA感染中であること」及び「バンコマイシン継続投与の必要性」について記載しなければならないが、これらの記載がない(甲A43号証)。
第5 民法415条の解釈適用の誤り
 転医に際し、右膝MRSA感染中であること及びバンコマイシン継続投与の必要性について説明義務を怠った説明義務違反がある。これを認定しない原審の判断には、診療契約上の説明義務について民法415条の解釈適用を誤った違法がある。
第6 小括
 以上のことから、申立人の自己決定権を侵害し不適切な転医先を決定した主要事実、正確な病状・必要な治療法を説明しなかった主要事実、診療情報提供書に正確な病状・必要な治療法の記載が一切なく正確な情報を提供しなかった主要事実及びUK医師がこれらを黙認した主要事実は、判決に影響を及ぼすべき重要な事項であり、これらについて判断を遺脱した違法がある。この違法は、原判決に影響を及ぼすことが明らかである。よって、原判決は、民訴法325条2項に基づき破棄されるべきである。
第6章 判断の遺脱(6)
 判決に影響を及ぼすべき重要な事項について判断の遺脱があること
1.本件第1手術及び持続洗浄(本件第1手術・本件第2手術)が医療水準に反する行為である主要事実は判決に影響を及ぼすべき重要な事項である。これについて判断の遺脱がある。よって上告受理を求める(上告受理申立て理由15)。
2.本件第1手術の説明義務違反は判決に影響を及ぼすべき重要な事項である。これについて判断の遺脱がある。よって上告受理を求める(上告受理申立て理由16)。
3.ステロイドプレドニン)及びザイボックスについての添付文書違反は判決に影響を及ぼすべき重要な事項である。これについて判断の遺脱がある。よって上告受理を求める(上告受理申立て理由17)。
4.問診義務違反及び経過観察義務違反は判決に影響を及ぼすべき重要な事項である。これについて判断の遺脱がある。よって上告受理を求める(上告受理申立て理由18)。
5.本件第1手術と右膝障害の結果との間の因果関係は判決に影響を及ぼすべき重要な事項である。これについて判断の遺脱がある。よって上告受理を求める(上告受理申立て理由19)。
6.骨の感染、本件病院入院中の骨髄炎罹患、右膝半月板消失・右膝前十字靭帯ほぼ消失の主要事実はいずれも判決に影響を及ぼすべき重要な事項である。これらについて判断の遺脱がある。よって上告受理を求める(上告受理申立て理由20)。
7.本件第2手術直後から4時間もの間、持続洗浄を実施せず申立人をベッドに寝かせず床上約160cmの高さに設置された担架状様に放置した主要事実は、判決に影響を及ぼすべき重要な事項である。これについて判断の遺脱がある。よって上告受理を求める(上告受理申立て理由21)。
第7章 虚偽証言が判決の証拠となったこと(民訴法338条1項7号)
第1 はじめに
 原判決は、UK医師の虚偽の証言が判決の証拠となっている。よって、上告受理を求める(上告受理申立て理由22)。
第2 右膝障害の結果の原因
 UK医師は、右膝障害の結果の原因について、「治療は、うまく継続されていないのではないかと思います。」と証言し、必要な治療は「バンコマイシンの継続投与であった。」ことを証言した。自白である(U証人調書40頁)(下線は申立人による。)。
裁判所はその自白に拘束され、自白どおりの事実認定をしなければならない。UK医師の自白した事実は証明する必要がない。証明不要効である(民訴法179条)。
第3 原判決の問題
 バンコマイシンを継続投与しなかったことが右膝障害の結果の原因であるという確定事実がある以上、バンコマイシンを継続投与しなかった経緯を解明する必要がある。
 ところが、原判決はバンコマイシン投与中止の経緯について判断をしていないかまたは一審判決を是認している。
第4 バンコマイシン投与終了決定及びザイボックス処方経緯
1.申立人は、これまでバンコマイシン投与終了を決定したのは本件病院医師らであることを準備書面にて再三主張してきた。
2.UK医師は、バンコマイシン投与終了決定及びザイボックス処方経緯について虚偽の証言をした(U証人調書19、40頁)。
3.申立人は、UK医師の虚偽証言及びバンコマイシン投与終了決定・ザイボックス処方経緯について、「尋問調書・陳述書について」(平成27年2月5日付)と題する書面に記載し、同書面を陳述した(平成27年6月3日の本件第1回口頭弁論期日)。
 また、申立人は、バンコマイシン投与終了決定及びザイボックス処方経緯についての認定判断の誤りを平成27年4月29日付控訴理由書に記載した。
4.原審は、バンコマイシン投与終了を決定したのは本件病院医師らであると主張する申立人の主要事実を排斥した。
その結果、UK医師の虚偽証言を採用し、これが判決の証拠となっている。
第5 法令の解釈に関する重要な事項を含んでいること
1.民訴法247条違反
(1)抗菌薬投与・細菌培養一覧の「    」欄から、ザイボックス処方及びバンコマイシン投与終了は、「6月11日」であることを特定することができる(甲A21号証)。
 6月11日、本件病院医師らは、申立人にザイボックスを朝夕2回(1200:1錠600mg×2)処方し、申立人は、「6月11日の朝食後」からザイボックスを服用した(甲B69号証)。 
 本件病院医師らがバンコマイシン投与終了を決定したので、6月11日のバンコマイシン投与歴は「ない」。これを証明する証拠となる「抗菌薬投与・細菌培養一覧」を採用しないことは、採証法則に反する。採証法則に反する事実認定は違法である(民訴法247条)。
(2)UK医師は、「(バンコマイシン投与について)朝晩通っていただければ点滴もできますよという話もしたんですが」と証言した(U証人調書40頁)。
 しかし、申立人は右足の親指がかろうじて反応するのみであり、車椅子の移乗にも介助が必要であったところ、高齢の両親(当時、父  歳、母  歳)の介護を受けながら、自宅から本件病院まで車で「片道2時間強」をバンコマイシン継続投与のために毎日「1日2回」通院することは、社会通念上の常識をはるかに超えている。常識的経験則に反する事実認定は違法である(民訴法247条)。
 よって、UK医師の前記証言が虚偽であることは明らかである。常識的経験則に反する違法な認定を前提としたうえで、ザイボックス処方経緯を認定判断しているのであるから、この判断にも違法がある(民訴法321条1項)。
(3)また、ザイボックスの処方経緯についてUK医師は、「そのメディカルスタッフとみんなで話し合いが持たれたみたいですけれども」と証言した(U証人調書19頁)。
 6月11日MT開始時刻は、「17:30過ぎ頃」である。MT中、MT参加者の一人であるMK病棟係長が、ザイボックス取り扱い業者に連絡をとるために電話をしたが、「18:00」を過ぎていたので連絡がとれなかった。よってMT開始時刻の特定は可能である(下線は申立人による。)。
 申立人は6月11日の朝食後にザイボックスを既に服用していたことから、UK医師が証言するところの「話し合い」の後に「ザイボックス」処方を決定したのではない。時系列整合性がなく、論理法則に反する。論理法則に反する事実認定は違法である(民訴法247条)。
 UK医師は虚偽の証言をしている。
 論理法則に反する違法な認定を前提としたうえで、ザイボックス処方を認定判断しているのであるから、この判断にも違法がある(民訴法321条1項)。
(4)要するに、バンコマイシン投与終了決定及びザイボックス処方経緯の事実認定には、採証法則・常識的経験則・論理法則に反する違法があり、違法な認定を前提としたうえで、バンコマイシン投与終了決定及びザイボックス処方を認定判断しているのであるからこの判断にも違法がある(民訴法247条、民訴法321条1項)。
2.民訴法149条違反
 6月11日、朝食後に、K看護師が申立人に「ザイボックス」を直接手渡しした事実がある。
そこで、原審は、申立人に対し、K看護師の証人尋問について証拠申出をするかどうかについて釈明権を行使すべきであった。
 原審がこのような措置に出ることなく、本件病院医師らがバンコマイシン投与終了を決定し、かつザイボックス処方を決定した主要事実についての申立人の主張を排斥したのは、釈明権の行使を怠った違法がある(民訴法149条)。
第6 小括
 以上によれば、バンコマイシン投与終了の責任の所在について判断をしていないかまたは一審判決を是認した原判決は、民訴法247条、民訴法149条に違反する。これらの法令違反の結果、審理の尽くされていない部分が存在することになり、その部分に対する判断が欠けることになるので、理由不備の違法がある。
 また、バンコマイシン投与終了について、UK医師の虚偽の証言が判決の証拠となっている。虚偽の証言に証拠能力はない。これらの違法は判決に影響を及ぼすことは明らかである。
第Ⅴ部 結論
 以上のとおり、原判決は、明らかにこれまでの最高裁判所判例と相反する判断をしており、憲法11条、13条、14条1項、25条に違反し、民法415条、709条、645条、民訴法181条1項の解釈適用を誤った違法があり、民訴法149条、151条1項5号、159条、179条、228条4項、247条、253条1項3号、321条1項、民訴規則79条3項、国際人権B規約7条、医師法23、24条、医師法施行規則23条、医療法1条の4第1,2項、療養担当規則16、20条5項、感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律5条に違反し、また、判断の遺脱等の再審事由がある。これらの法令違反は判決に影響を及ぼすことが明らかであるから、原判決は破棄されるべきである。
 よって、本上告受理の申立てをする。
                                     以上
                     附属書類
上告受理申立理由書副本                       7通
平成27年(ネオ)第544号 損害賠償請求上告事件
上告人  筆者
被上告人 学校法人 北里研究所
上告理由書
                              平成27年9月6日
                             上告人 筆者
頭書の事件について、上告人は、次のとおり上告理由を提出する。
理由要旨
第Ⅰ部 憲法違反
1.憲法14条1項違反
 医師の注意義務の判断基準たる「医療水準」は、「当時の医学文献等の記載内容が医療水準である」ことが具体的に設定され判例法理として既に確立している(最高裁判所第3小法廷昭和57年3月30日判決(集民第135号563頁)、最高裁判所第3小法廷平成8年1月23日判決(民集第50巻1号1頁)、最高裁判所第3小法廷平成9年2月25日判決(民集第51巻2号502頁))。
 しかし、医療水準についての原審の判断はこれとは全く異なる。
原審の判断を判決として確定させることは、医療水準について2つの異なる法律判断の存在を認めることになる。医療水準に対する2つの異なる法律判断によって、2つの異なる判断がなされることは、法の下の平等を規定する憲法14条1項に違反する(上告理由1)。
2.憲法13条違反
(1)医師が独自の見解に基づく独自の治療方法を独断で決定し、患者に治療方法を選択させる機会を一切与えないことは自己決定権の侵害であり、憲法13条違反である(上告理由2)。
(2)医師が患者に検査結果を故意に隠蔽することは、説明義務違反である。自己に関する情報を得ることなく自己決定権を行使することはできない。よって、説明義務違反は自己決定権の侵害であり、これは憲法13条違反である(上告理由3)。
(3)医師が患者に正確な病状及び必須の治療を説明しないことは、説明義務違反であり、憲法13条違反である(上告理由4)。
(4)患者の自己決定権は、どのような治療を受けるかについての決定権は、拒否する権利を含めて保障されている。自己決定権の侵害は憲法13条違反である(上告理由5)。
(5)患者の意思に反して転医や退院を強制することは、患者の自己決定権侵害であり、これは憲法13条違反である(上告理由6)。
(6)医師が患者は死んでも構わないとして治療をしないことは、生命に対する権利侵害であり、これは憲法13条違反である(上告理由7)。
3.憲法11条違反
 瀕死の容態にある患者に対する拷問とも言える医療の名に値しない行為は、人間の尊厳を著しく侵すものであり、これは憲法11条違反である(上告理由8)。
4.憲法25条違反
(1)医師が重篤な病態にある患者の容態が更に増悪していく過程を、「あれあれっと思って」いながらこれをただ漫然と観察するに留まることは、その職務上の使命の遂行に著しく欠けるものがあるというべきである。
 また、必須の治療を判っていながらこれを実施しないことは医師としての職務を全うしていない。
よって、医師としてなすべきことをなさないことは、患者が健康である権利を著しく侵害することであり、これは憲法25条違反である(上告理由9~10)。
(2)VRSA(バンコマイシン耐性黄色ブドウ球菌)患者となったことに因り、右膝MRSA感染再燃悪化の場合、生命存続の危機に常に曝露され、内心の静穏な感情を害され、焦燥・不安の精神的苦痛に強いられている状態は、社会通念上その限度を超えるものであり、VRSA患者にまで至らしめたことは、上告人が健康である権利を著しく侵害することであり、これは憲法25条違反である(上告理由11)。
(3)治療とならない医師の行為は、上告人の健康を否定することである。これは、憲法25条違反である(上告理由12)。
第Ⅱ部 絶対的上告理由
第1章 判決裁判所の構成違反
 原判決の判決原本には、裁判官の署名押印がないから、民訴法312条2項1号の絶対的上告理由に該当する(上告理由13)。
第2章 理由不備
1.上告人が原審において新たに提出した証拠に基づく主張が、「控訴人が当審において追加又は敷衍した主張」に記載されていない。
 よって、原審として独自に判断した内容が記載されていない。判断がされていないので、これに対する理由の記載もなく理由不備がある。これは民訴法312条2項6号の絶対的上告理由に該当する(上告理由14~16)。
2.証拠の評価が訴訟の勝敗を決するような証拠である書証を排斥する理由を明示していない理由不備がある。これは民訴法312条2項6号の絶対的上告理由に該当する(上告理由17)。
3.証言に矛盾があるにもかかわらず、どのような理由でその証言を認定判断の資料となったのかを明示していない理由不備がある。これは民訴法312条2項6号の絶対的上告理由に該当する(上告理由18~19)。
4.判断の理由が不明であり、理由不備がある。これは民訴法312条2項6号の絶対的上告理由に該当する(上告理由20~22)。
第3章 理由齟齬
1.争点となっている主要事実について、「当時者間に争いがない。」として記載し、一方で「「なお、持続洗浄が開始された時期については、後記のとおり争いがある。」を加える。」と記載しており、意味不明であり理由齟齬がある。これは民訴法312条2項6号の絶対的上告理由に該当する(判決2頁)(上告理由23)。
2.判断に矛盾があるので、その判断に対する理由に食い違いがあり、理由齟齬がある。これは民訴法312条2項6号の絶対的上告理由に該当する(上告理由24~25)。
上告の理由
【本件の概要】
第1 事案の概要
 本件は、平成21年(以下、平成21年であるときは、その記載を省略する。)4月24日右膝痛が増強したとして、被上告人の開設する北里大学病院(以下「本件病院」という。)整形外科を受診したところ、本件病院医師ら(本件病院にて上告人の診療にあたった医師及び看護師らを総称して、「本件病院医師ら」という。)による医療水準に反する本件第1手術(デブリドマン・持続洗浄)の結果、上告人をMRSA右化膿性膝関節炎、骨の感染、MRSA右膝骨髄炎に罹患させ、本件病院医師らの不適切な抗菌薬投与により、VRSA(バンコマイシン耐性黄色ブドウ球菌)患者に至らしめ、その結果、右膝MRSA感染症に対する治療は不可能な状態に陥り、右下肢 膝関節 機能全廃となり、MRSA右膝慢性骨髄炎に至った(甲A1号証、甲A2号証)。
 また、右膝は悪化するのみであり、右膝疼痛は増強し、右膝MRSA感染再燃悪化の場合には生命の保証はなく、骨切り固定術又は切断を苦慮する病態に陥っているとして、上告人は被上告人に対し、不法行為又は債務不履行に基づく損害賠償として、治療関係費、逸失利益、慰謝料等の合計1憶2000万円及びこれに対する平成25年5月2日(訴状送達日の翌日)から支払済まで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払いを求める事案である。
第2 原判決の問題
1.原判決には憲法違反がある。
2.原判決には判決裁判所の構成違反がある。
3.上告人が原審にて新たに提出した証拠等による複数の主張が、「控訴人が当審において追加又は敷衍した主張」に記載されていない。
 よって、原審として独自に判断した内容を記載していないので、これらに対する理由の記載もない。理由不備がある。
(1)「本件病院入院後にMRSA関節炎に罹患し、本件病院入院時にはMRSA関節炎に罹患していなかった主要事実」について判断がされていないので、理由の記載もない。主文を導き出すための理由の一部が欠けており、理由不備の違法がある。
(2)TDM実施のための採血時刻から、TDMに記載のある「12.5μg/ml」は、「投与前」のトラフ値ではなく、「投与後」のピーク値となる。
よって、TDMは不適切である。原判決は、「ピーク値」を「トラフ値」と前提としたうえで判断をしている。
要するに、「TDMの採血時刻」からTDMは不適切である主要事実については判断がされていないので、理由の記載もない。理由不備の違法がある。
(3)「本件第2手術説明同意書(乙A1号証の57頁)が偽造された主要事実」について判断がされていないので、理由の記載もない。理由不備の違法がある。
4.原判決は、認定事実と異なる証拠となる書証を採用せず、採用しなかった理由を明示していない理由不備の違法がある。
5.UK医師が、4月30日に右膝MRSA感染を認識し、同日バンコマイシンを投与しないことに因る右膝MRSA感染増悪を証言し、自白した。
バンコマイシンを投与しないことに因る右膝MRSA感染増悪を容認する原審の判断は問題であり、かかる判断の理由を明示していない理由不備の違法がある。
6.骨髄炎罹患を示す「右膝MRI画像」、右膝半月板消失・右膝前十字靭帯ほぼ消失を示す「右膝MRI画像」、ARDS発症を示す「胸部レントゲン画像」、看護記録改竄・隠蔽を証明する上告人元代理人弁護士3名ら作成による「証拠保全申立書」、「補充書面」、「電話聴取書」等の書証は具体的・客観的なものである。
 原審は特段の事由を認定することなくこれらをいずれも採用せずに、上告人の主張事実を排斥した理由不備の違法がある。
 とりわけ、看護記録改竄・隠蔽は、本件病院医師らの主張・証言・陳述に対する信用性の判断に大きな影響を及ぼすものである。看護記録改竄・隠蔽部分は、本件第2手術後の争点に相当する事項を含むものである。
7.原判決には、判断に矛盾があるので理由にも食い違いがあり、理由齟齬の違法がある。
8.原判決は、上告人の主張に対し判断をしていない部分がある。そこで、原判決が判断していない部分については一審判決を踏襲したものとみなし、これに対し憲法違反、理由不備及び理由齟齬について述べる。
第3 小括
 原判決は、憲法11、13、14条1項、25条に違反し、判決裁判所の構成違反がありこれは民訴法312条2項1号の絶対的上告理由に該当し、理由不備及び理由齟齬がありこれらは民訴法312条2項6号の絶対的上告理由に該当し、違法であるから、破棄されるべきである。
第Ⅰ部 憲法違反
第1章 憲法14条1項違反
 本件第1手術及び持続洗浄(本件第1手術・本件第2手術)は、医療水準に反する医療行為である。
そこで、医療水準に従った医療行為を受ける患者とそうでない患者が混在することになる。これは、法の下の平等を規定する憲法14条1項に違反する。本件病院医師らは、上告人に対し医療水準に反する医療行為を実施した。これは憲法14条1項違反である(上告理由1)。
第2章 憲法13条違反
第1 自己決定権侵害(1)
1.本件病院医師らは、「化膿性膝関節炎の疑い」に対する治療方法を独自の見解に基づいて独自の方法を独断で決定したので、上告人にはいかなる治療方法を選択するかについて、選択の余地が全くなかった。これは自己決定権の侵害であり、憲法13条違反である(上告理由2)。
2.化膿性膝関節炎の疑いの治療方法は、「抗菌薬の静脈投与」であることに対し、UK医師は、「私の中では正しいとは思えないです。」と証言して医学界に異を唱え、医学文献に記載のある持続洗浄方法について、「それは、もうその教科書を書いた方たちの意見なので。」と証言して医学文献に記載のある内容を完全に無視し、A/S(関節鏡視下手術)での治療方法について、「僕らは化膿性膝関節炎に対しては、関節鏡視下にはやらない方針でいます。」と証言した(U証人調書24、26、60頁)。
 医学文献にある記載内容を完全に無視して独自の見解に基づく独自の理論を展開し独断で治療方法を決定し、また、平均的医師でさえ行わない本件病院医師ら独自の見解に基づく独自の治療方法を実際の医療で実施することは許されない。
 純粋に実験室の中で行われる「医学」と他人との権利義務関係が生じる「医業」とは全く別であるから、「医業」の中では、「当時の医学文献の記載内容」である客観的行為規範に則って、医療行為を実施しなければならない。
第2 自己決定権侵害(2)
 4月24日、UK医師は、「緊急入院して緊急手術を実施しないと死亡する。運の悪いことに検査技師が連休で検査はできない。」と上告人及びその家族らに説明し、当日判明の検査結果を故意に隠蔽した。
 当日判明の検査結果である「滑膜炎、グラム染色陰性」の説明があれば、上告人はこれらの意義を理解しているので、本件第1手術を明確に拒否していた。
 UK医師が4月24日当日判明の検査結果を故意に隠蔽したことにより、本件第1手術を明確に拒否するという自己決定権を侵害された。自己決定権の侵害は、憲法13条違反である(上告理由3)。
第3 自己決定権侵害(3)
1.6月11日17:30過頃MT、HN医師は、上告人及びその家族らに対し、「右化膿性膝関節炎は良くなっている。関節内に菌はないが、右膝MRSA感染を予防するためにザイボックスを服用し続ける必要がある。」と説明した。この旨は同日の同医師カルテに記載がある。
2.ところが、UK医師は、「(6月11日時点)右膝MRSA感染は陰性化しておらず、治療の途中であり、バンコマイシンの継続投与が必要な状態にあった。治療は、うまく継続されていないのではないかと思います。」と証言し、右膝障害の結果の原因は、6月11日時点においてバンコマイシンを継続投与しなかったことであることを証言した(U証人調書19、20、40頁)。
3.つまり、HN医師は、上告人及びその家族らに対し事実と全く異なる説明をした。
 その結果、6月11日、上告人は自身が右膝MRSA感染中であること及びバンコマイシン継続投与が必要な状態にあることを知ることができなかった。
 知る権利を侵害された上告人は、必要な治療であるバンコマイシン継続投与を受けなければならないという自己決定権を侵害された。
 知る権利の侵害及び自己決定権侵害は、憲法13条違反である(上告理由4)。
第4 自己決定権侵害(4)
1.本件第2手術直後グラム陽性菌検出を家族から知らされた上告人は、5月2日午前、UK医師に対し「バンコマイシン投与開始ですよね。」と念のために確認したところ、同医師は、「バンコマイシンは投与しない。ステロイドパルス療法を優先する。」と返答した。
 これに対し、上告人は感染中のステロイド投与は感染増悪をもたらすのでステロイドを投与しないように、ステロイド投与拒否を明確に意思表示しこれを伝えたうえで、バンコマイシンを投与するように訴えた。
2.しかし、同医師はこれを無視し、ステロイドパルス療法(ステロイド投与)を実施した。
 ステロイドパルス療法(ステロイド投与)を実施し、バンコマイシンを投与しなかったことは、自己決定権の侵害である。自己決定権侵害は、憲法13条違反である(上告理由5)。
第5 自己決定権侵害(5)
1.6月10日、HN医師は転医先を「相模台病院」と決定した。6月11日午前、HN医師は上告人に対し、転医先を「相模台病院精神科閉鎖病棟」と決定したと説明した(甲A26号証、甲A43号証)。
 これに対し、上告人は、同医師に対して前記転医先への転院拒否を明確に意思表示し、これを伝えた。
 なお、診療情報提供書発行経緯について同医師は、虚偽の証言をしている(H証人調書8頁)。
2.HN医師が転医先を「相模台病院精神科閉鎖病棟」又は「相模台病院精神科」と決定したことは、自己決定権の侵害である。自己決定権の侵害は、憲法13条違反である(上告理由6)。
第6 生命に対する権利侵害
 本件第2手術直後から持続洗浄を実施すべきところ、本件第2手術直後から4時間、持続洗浄を実施しなかったことは、上告人の生命を危機的状況に陥らせる危険性があった。UK医師は、「持続洗浄を実施しないと、菌が全身を駆け巡り死亡する。」と説明した。
 上告人が、Y看護師に対し持続洗浄を実施しないことに因る「死の恐怖」を訴えたことに対し、同看護師は、「(死んでも)どうでもいい。持続洗浄は実施しないことになっている。  さんは治療の対象になっていない。治療をしないことになっている。」と返答し、O看護師はこれを黙認した。
 持続洗浄を実施しないことに因る「死亡の可能性」を認識しておきながらこれを実施しなかったことは、上告人の生命存続を否定することであり、生命そのものが失われることによって自由も幸福の追求の保障も意味をなさない。
 持続洗浄を実施しなかったことは生命に対する権利侵害であり、これは、憲法13条違反である(上告理由7)。
第3章 憲法11条違反
 人間の尊厳の不可侵性は、基本的人権の中核をなす普遍的権利である。
本件病院医師らが本件第2手術直後から4時間、瀕死とも言えるきわめて重篤な容態にあった上告人をベッドに寝かせず、床上160cm程の高さにある担架状様に放置し、持続洗浄を実施しないことに因る「(死ぬかもしれない)死に隣接した激甚な恐怖」及び「落下の恐怖」を与え続けたことは、上告人の尊厳を著しく侵すものである。これは、憲法11条違反である(上告理由8)。
第4章 憲法25条違反
1.4月30日、本件病院医師らは、右膝MRSA感染に対し、バンコマイシン投与の必要性を認識・把握しておきながらこれを実施せず、これに因る右膝MRSA感染増悪をも認識していた。
 これはUK医師が「(4月30日に)右膝MRSA感染を認識しバンコマイシンを投与しないことによって右膝MRSA感染が増悪する。」ことを証言したことから明らかである(U証人調書32、34頁)。
 憲法13条が保障する生命に対する権利は、生存の質をも保障するものであり、生命は心身ともに健康でなければ、生存の質を確保することは不可能であるから、健康も憲法上保障されるものである。憲法25条は、「健康で文化的な生活」を保障する。
 よって、4月30日、右膝MRSA感染増悪を認識・把握しておきながら、バンコマイシンを投与しなかったことは上告人が健康であることを否定することである。これは、憲法25条違反である(上告理由9)。
2.6月11日、右膝MRSA感染が陰性化しておらず、バンコマイシン継続投与の必要性があったにもかかわらず、バンコマイシンを継続投与しなかった。
 これはUK医師が、「バンコマイシンを継続投与しなかったことが現在の右膝の障害の原因である。」ことを証言したことから明らかである(U証人調書40頁)。
 6月11日、右膝MRSA感染が陰性化しておらずバンコマイシンを継続投与しなかったことは、上告人が健康であることを否定することである。これは、憲法25条違反である(上告理由10)。
3.本件病院医師らの上告人に対する不適切な抗菌薬投与に因り、上告人は全ての抗MRSA薬に耐性・無効であるVRSA(バンコマイシン耐性黄色ブドウ球菌)患者となった。
 その結果、右膝MRSA感染再燃悪化の場合には、使用できる抗菌薬が存在しないので、生命存続の危機に常に曝露されている状態である。
 よって、上告人は、内心の静穏な感情を害され、右膝疼痛増強に苦しみながら、焦燥・不安の精神的苦痛を強いられている。
 上告人のデータ・病態を把握している医師らが、「爆弾を抱えていると思って生活していくしかない。」と説明しているとおり、社会通念上その限度を超える精神的損害を生じているものである。このような状態では心身は健康とはいえない。
 本件病院医師らに因る、正当性・必要性・妥当性のない本件第1手術及び不適切な抗菌薬使用によってVRSA患者となったことは上告人が健康であることを否定することである。これは、憲法25条違反である(上告理由11)。
4.治療にならないことは、上告人の健康を否定することである。
(1)UK医師は、バンコマイシン血中濃度の意義を理解していない。
 これについて、同医師は、「ここに「L」と書かれていること自体は、よく分かりません。」と証言した(U証人調書35頁)。
(2)UK医師は、セファゾリンの投与量及び投与間隔について基本的知識が欠落している。
セファゾリンの投与間隔は8時間である(抗菌薬毎に投与間隔が異なる。)。
 これについて、同医師は、「そういう8時間というのはその正確な値かどうかは分かりませんけれども、ある程度、うん、ちょっとそこら辺は確かではありません。僕の知識の中では。」と証言し、
 また、セファゾリンの投与量について、同医師は、「うちの施設では、術前の投与で術前の30分前に2グラム投与しています。」と証言した。予防的抗菌薬を「2g」としておきながら、上告人の治療として同剤を「1g」に減量したことは全く不明である(U証人調書25頁)。
(3)UK医師は、国内外を問わず、MRSA骨髄炎治療に必要なバンコマイシンのトラフ値は、「15~20μg/mL」であることを理解していない。
 これについて、同医師は人種別を引き合いに出して、「日本人量がこれで正しいのかというと、そうではないと思います。」と証言した。MRSA感染症の治療に人種別は無関係である(U証人調書36頁)。
(4)CRP(29.75)が高度上昇し続けていることに対し、UK医師は、「あれあれっと思ってはいるわけですよね。ただ、あれあれっと思っていても、」と証言したが、患者によっては既に「死亡」レベルの数値であるところ、これを「あれあれっと」上告人の容態が急速に重篤化しているのをただ漫然と観察しているのみでは治療にはならない(U証人調書32頁)。
(5)UK医師は、持続洗浄機器の使用方法を理解していないのではないかと思われる。
本件第1手術後、持続洗浄が逆流・停滞していたことに対し、「よくあることなんだよね。」とややおどおどした口調で言い、逆流・停滞を放置したままであった。
 逆流は、4月29日の「INチューブ」が混濁していることから明らかである(甲A16号証の1)(「INチューブは生理食塩水で満たされているから、本来透明でなければならない。」)。
 化膿性膝関節炎は、「整形外科疾患」ではなく、「内科救急疾患」である。UK医師の本件病院での持続洗浄による治療成績は「22例23関節」のみである(U証人調書26頁)。
(6)以上のとおり、UK医師は、基本的な検査数値、抗菌薬の投与量・投与間隔及びMRSA骨髄炎治療に必要なバンコマイシンのトラフ値を理解していない。
かかる状況の下では治療にはなっておらず、これは上告人が健康であることを否定することである。
 これは、憲法25条に違反するのみならず、生命に対する権利を保障する憲法13条に直接違反するものである(上告理由12)。
第Ⅱ部 絶対的上告理由
第1章 判決裁判所の構成違反(民訴法312条2項1号)
 原判決の判決原本には、裁判官の署名押印がないから、民訴法312条2項1号の絶対的上告理由に該当する(上告理由13)。
 平成27年7月21日、上告人は東京高等裁判所記録閲覧謄写室にて訴訟記録を閲覧・謄写した。その際、謄写した原判決原本を「原判決原本の謄写」と題する書面として提出する。
第2章 理由不備(民訴法312条2項6号)
第1 原審にて新たに提出した証拠等に基づく主張に対して、原審は、「控訴人が当審において追加又は敷衍した主張」として記載していない。判断をしていないので理由の記載がなく、理由不備がある。
1.「診断群分類決定票」及び「レセプト」は、本件病院入院後MRSA関節炎に罹患し、本件病院入院時MRSA関節炎に罹患していなかった主要事実を証明する証拠となる書証である。
 ところが、原審(一審)は特段の事由を示すことなく、これら書証の証明力を否定して排斥し、本件病院入院後に右膝MRSA感染した事実を否定した(甲A27号証、甲A55号証)(一審判決29頁)。
 そこで、上告人は、本件病院入院後にMRSA関節炎に罹患し、本件病院入院時MRSA関節炎に罹患していなかった主要事実を証明する証拠となる書証である「厚生労働省保険局医療課作成DPC/PDPS傷病名コーディングテキスト」及び「入院医療のための保険診療ガイド」を控訴審にて新たに提出した(甲B164号証、甲B165号証)。
 本件病院入院後にMRSA関節炎に罹患した主要事実を証明する証拠は、訴訟の勝敗を決する重要な書証である。
 本件病院入院後にMRSA関節炎に罹患し、本件病院入院時にはMRSA関節炎に罹患していなかった主要事実について、原審は、「控訴人が当審において追加又は敷衍した主張」として記載していない。
 また、原審は特段の事由を認定することなく、甲A27号証、甲A55号証、甲B164号証、甲B165号証を排斥し、本件病院入院後にMRSA関節炎に罹患し、本件病院入院時にはMRSA関節炎に罹患していなかった主要事実を認定判断せず、理由の記載がない。理由不備がある。これは民訴法312条2項6号の絶対的上告理由に該当する(上告理由14)。
2.TDMが不適切である主要事実に対し、原審(一審)は、「TDMのための採血が午前6時30分に実施されたと認めるに足りる証拠はない。」と認定した(一審判決40頁)。
 そこで、上告人は、「整形外科病棟の日程表」を提出し、「12.5μg/mL」とあるのは、「投与前」のトラフ値ではなく、「投与後」のピーク値であるから、TDMは不適切であることを主張した。
 バンコマイシンMRSA関節炎に対する有効率が100%であることからすれば、TDMが適切であったか否かは主要事実であり、訴訟の勝敗を決する重要な事項である(甲A99号証の1、乙A1号証の97頁)。
 適切なTDMを実施するためには正確なトラフ値を測定する必要があり、採血時刻は重要な事項である。
 ところが、原審は、TDMの採血時刻について「控訴人が当審において追加又は敷衍した主張」として記載していない。判断をしていないので理由の記載がなく、理由不備がある。これは民訴法312条2項6号の絶対的上告理由に該当する(上告理由15)。
3.本件第2手術説明同意書(乙A1号証の57頁)が偽造された主要事実について、原審(一審)は、「本件病院における説明同意書が複写式ではなく、別々に署名されたことが認められる。」と認定した(一審判決46頁)。
 そこで、上告人は本件病院における説明同意書は、「複写式」であることを証明する証拠を提出し、本件第2手術説明同意書(乙A1号証の57頁)は偽造された文書であり、偽造文書により本件第2手術は実施されたことを再度主張した。
 上告人が所有している本件第2手術説明同意書(甲A38号証)には、「署名及び拇印」がないことからすれば、複写式であるはずの説明同意書が「2種類」存在することは不自然である。
 原審は、説明同意書が「2種類」存在する合理的な理由を明示していない(甲A39号証、甲A41号証、甲A67号証、甲A96号証)。
 要するに、本件第2手術説明同意書(乙A1号証の57頁)が偽造文書であると主張する主要事実について、原審は、「控訴人が当審において追加又は敷衍した主張」として記載していない。判断をしていないので、理由の記載がなく理由不備がある。これは民訴法312条2項6号の絶対的上告理由に該当する(上告理由16)。
第2 認定事実と矛盾する以下の書証を排斥した理由を明示していない理由不備がある。これは民訴法312条2項6号の絶対的上告理由に該当する(上告理由17)。
1.「骨の感染」であることが明記されている本件病院医薬品適正使用ラウンド(甲A22号証)。
2.「骨髄炎罹患」を示す右膝MRI画像(甲A60号証の1~4)。
3.「本件病院入院後に右膝MRSA感染」した証拠である診断群分類決定票の「後発疾患MRSA関節炎」及びレセプトの「入院後発症傷病名MRSA関節炎」並びにこれら用語の定義を記載した厚生労働省保険局医療課作成DPC/PDPS傷病名コーディングテキスト及び入院医療のための保険診療ガイド(甲A27号証、甲A55号証、甲B164号証、甲B165号証)。
4.「MRSA骨髄炎に対しザイボックスを使用すべきではないこと」が明記された国内外の医学文献等(甲B31号証、甲B56号証、甲B102号証、甲B103号証)。
5.「右膝半月板消失・右膝前十字靭帯ほぼ消失」を示す右膝MRI画像(甲A60号証の1~4)。
6.「ARDS発症」を示す胸部レントゲン画像(甲A62号証、甲A63号証、甲A64号証、甲A65号証、甲A66号証)。
7.「骨髄炎」罹患を証明する診断書(甲A78号証)。
8.「看護記録改竄・隠蔽」を証明する証拠となる、上告人元代理人弁護士3名ら作成による証拠保全申立書、補充書面、電話聴取書(甲C11号証、甲C20号証の1)。
9.「診療録の不備」を示すカルテ(乙A1号証の16~26頁)。
第3 証言に矛盾があるにもかかわらず、どのような理由でその証言を認定判断の資料となったのかを明示していない理由不備がある。これは民訴法312条2項6号の絶対的上告理由に該当する。
1.4月24日、UK医師は、「化膿性膝関節炎の疑い」の段階で「緊急性」を強調し、翌日の4月25日、本件第1手術を実施した。
 ところが、UK医師は、4月30日、右膝MRSA感染を認識・把握しておきながらバンコマイシンを投与せず、同日バンコマイシンを投与しないことに因る右膝MRSA感染増悪を認識・把握し、かつ本件第2手術を直ちに実施することなく、5月1日23:45まで右膝MRSA感染に対する一切の治療を開始しなかった(U証人調書33、34頁)。
 要するに、4月25日に「化膿性関節炎の疑い」で「緊急性」を強調し、本件第1手術を実施した。
 一方、4月30日に「右膝MRSA感染」を認識・把握しておきながら、これに対する治療を一切開始せず、「緊急性」を否定している。
 原審は、どのような理由でUK医師の証言、すなわち、「化膿性膝関節炎の疑い」の時点で、本件第1手術を直ちに実施する「緊急性」を認定判断の資料としたのかを明示していない。理由不備がある。これは民訴法312条2項6号の絶対的上告理由に該当する(上告理由18)。
2.4月24日本件病院入院時、関節液の培養検査結果が判明しておらず、当然のことながら「菌」の同定は不可能である。
 よって、4月25日本件第1手術時点において、「化膿性膝関節炎の疑い」であり、「菌」の存在は全く不明である。
UK医師は、「先ほどお話したように菌が検出されていない」と証言した。菌の同定結果が判明していないので当然である。
 ところが、UK医師は、「お話したようにこんだけ菌がいて、これだけの抗菌薬で戦うのは難しいから、これをこのくらいにしましょうということで第1回の手術をしました」と証言した(U証人調書10、31頁)。
「菌」は検出されていないと証言したUK医師の供述は、尋問の途中から「菌」が存在することに話が「すり替わって」しまっているのである。
 UK医師の供述は曖昧模糊かつ脈絡がなく完全に意味不明である。
 4月24日及び25日採取の関節液その他培養検査結果が「全て陰性」である証拠があるにもかかわらず、どのような理由で「UK医師の菌がいる」との証言が認定の根拠となったのか明示しておらず、理由不備がある。これは民訴法312条2項6号の絶対的上告理由に該当する(上告理由19)。
第4 判断の理由が不明
1.本件第2手術を直ちに実施しなかった理由を明示していない。
(1)本件第2手術の説明及び5月1日造影MRI検査の説明について、UK医師は、「私はしていません。」と証言した。自白である。本多知成裁判長もこれを確認した(U証人調書52頁、平成27年4月29日付控訴理由書73頁)。
 よって、原判決が、「翌5月1日、患者及び家族への説明や検査を行って上で本件第2手術を実施したものであり、」と認定することはできない。
 裁判所は自白に拘束される。
 したがって、右膝MRSA感染を認識・把握した4月30日当日、本件第2手術を直ちに実施すべきであったと主張する上告人の主張を排斥する判断は違法である(判決6頁)。
 要するに、違法な事実認定を前提としたうえで判断しているのであるから、この判断にも違法がある(民訴法179条、民訴法321条1項)。
(2)そうすると、本件第2手術を「5月1日23:45」まで実施しなかった合理的な理由がない。原審はかかる理由を明示していない理由不備がある。これは民訴法312条2項6号の絶対的上告理由に該当する(上告理由20)。
2.原判決の反社会的な判断に問題があり、その判断の理由を明示していない。
(1)UK医師は、「4月30日、右膝MRSA感染を認識・把握しておきながらバンコマイシンを投与しないことに因る右膝MRSA感染増悪」を証言し、これを認めた。自白である(U証人調書32、34頁)。
 ところが、原審は、4月30日、バンコマイシンを投与すべきであると主張する上告人の主要事実を排斥した(判決3、6頁)。
(2)そうすると、原審は、バンコマイシンを投与しないことに因る右膝MRSA感染増悪という確定事実を不適切ではないと認定判断することになる。
 要するに、UK医師が、右膝MRSA感染を認識・把握しておきながら、バンコマイシンを投与しないことに因る右膝MRSA感染増悪を認める自白をしているにもかかわらず、原審がこれを不適切であると判断しないことは、バンコマイシンを投与しないことに因る右膝MRSA感染増悪を容認する判断であり、これは問題である。
 原審がかかる判断をした理由は不明であり、理由不備がある。これは民訴法312条2項6号の絶対的上告理由に該当する(上告理由21)。
3.原審(一審)は、「原告が外来受診の時点でMRSAに感染していたと認めることができる」と認定したが根拠となる科学的データ及び培養検査結果等の証拠は存在しない(一審判決29頁)。
 4月24、25日の検体全ての培養検査結果は、「全て陰性」である。MRSA院内発症は、入院後48時間以降である(甲B118号証の8頁)。
 また、本件第1手術後に白血球数及び好中球数はいずれも減少していることから、「ただの」滑膜炎である(U証人調書22頁)。
 さらに、原審(一審)は、培養検査結果の感度を問題にしているが、そうであれば、HN医師の陳述書、「5月25日及び26日に提出した滲出液の培養検査結果でも陰性であることが確認できたことから、転院してリハビリ」との記載を疑問視すべきである(乙A13号証の3頁)。
 原審は、4月24、25日の培養検査結果陰性に「懐疑的」であり、一方、HN医師陳述書の5月25、26日の培養検査結果に「懐疑的」ではない。原審の判断には整合性がない。
 要するに、原審(一審)の前記認定の根拠は不明であると主張したことに対し、原審(控訴審)は判断及び理由を記載していない。理由不備がある。これは民訴法312条2項6号の絶対的上告理由に該当する(上告理由22)。
第3章 理由齟齬(民訴法312条2項6号)
1.争点となっている主要事実について、「前提事実(以下の事実は、当事者間に争いがない。)」としておきながら、「「なお、持続洗浄が開始された時期については後記のとおり争いがある。」を加える。」と記載があり、理由・意味不明である。これは民訴法312条2項6号の絶対的上告理由に該当する(判決2頁)(上告理由23)。
2.化膿性膝関節炎の治療の最も重要なことは菌に感受性のある抗菌薬使用であることを認定判断しておきながら、一方で、右膝MRSA感染症に対し、MRSAに耐性のテトラサイクリン系クーペラシンを5月7日から6月1日まで継続投与容認の判断には矛盾があるから、その理由に食い違いがある。理由齟齬である。これは民訴法312条2項6号の絶対的上告理由に該当する(上告理由24)。
3.UK医師のA/S(関節鏡視下手術)での治療をしない方針との証言を採用し認定判断しておきながら、一方で、本件第2手術でA/S(関節鏡視下手術)実施を容認しており、判断に矛盾があり、その理由に食い違いがある。理由齟齬である。これは民訴法312条2項6号の絶対的上告理由に該当する(上告理由25)。
第Ⅲ部 結論
 以上のとおり、原判決は、憲法11、13、14条1項、25条に違反し、判決裁判所の構成違反がありこれは民訴法312条2項1号の絶対的上告理由に該当し、原審にて新たに提出した証拠に基づく主張に対する判断を示しておらずその部分に対する理由が全く記載されていない理由不備、証拠の評価が訴訟の勝敗を決するような証拠である書証を排斥する特段の事情を明示していない等の理由不備及び理由齟齬がありこれらは民訴法312条2項6号の絶対的上告理由に該当する。よって、原判決は違法であり、破棄されるべきである。
                                     以上
附属書類
1 上告理由書副本                         7通
2 「原判決原本の謄写」と題する書面副本              7通
平成27年(ネオ)第544号 損害賠償請求上告事件
上告人  筆者
被上告人 学校法人 北里研究所
原判決原本の謄写
                              平成27年9月6日
                             上告人 筆者
 頭書の事件について、上告人は、上告理由書の附属書類として本書面を提出する。
 本書面は、平成27年7月21日、上告人が東京高等裁判所記録閲覧謄写室にて訴訟記録を閲覧し、裁判官の署名押印のない原判決書原本1~7頁及び「これは正本である。平成27年7月15日 東京高等裁判所第11民事部 裁判所書記官 後藤正行 押印」との記載押印のある書面を謄写したものである。
                                     以上
※備考
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