北里大学病院医療過誤裁判 東京地裁から最高裁まで

北里大学病院整形外科における正当性のない不要な右膝切開術に因る重篤な後遺障害、人体実験的行為、非人道的行為に対する最高裁判所の前代未聞の重大な事実誤認及び重大な誤判確定

北里大学病院医療過誤裁判 東京地裁から最高裁まで 第Ⅲ章-1

北里大学病院医療過誤裁判 東京地裁から最高裁まで 第Ⅰ章及び第Ⅱ章に関連し、上告受理申立理由書(平成27年9月6日付)、上告理由書(平成27年9月6日付)等について記載したいと思う。
実際の上告受理申立理由書(同上)及び上告理由書(同上)には、目次・頁数の記載がある(北里大学病院医療過誤裁判 東京地裁から最高裁まで 第Ⅲ章ー2 ※備考を参照。)。
なお、SK医師の表記は北里大学病院整形外科外来担当医SKであり、UK医師・U先生・U医師の表記は北里大学病院整形外科主治医UKであり、HN医師・H先生の表記は北里大学病院受持医HNである。
U証人調書、H証人調書と記載があるのは、それぞれ、北里大学病院整形外科主治医UK、北里大学病院整形外科受持医HNの証人調書であり、本人調書と記載があるのは、筆者本人調書のことである。
参考までに、第1回口頭弁論調書(東京高等裁判所 平成27年(ネ)第1710号)及び記録到着通知書(最高裁判所第二小法廷 平成27年(オ)第1416号 平成27年(受)第1764号)を掲載する。
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平成27年(ネ受)第601号 損害賠償請求上告受理申立て事件
申立人 筆者
相手方 学校法人 北里研究所
上告受理申立理由書
                              平成27年9月6日
                             申立人 筆者
頭書の事件について、申立人は、次のとおり上告受理申立て理由を提出する。
理由要旨
1.医学文献に記載がなく、かつ平均的医師でさえ行わない医療行為、すなわち、医学水準に反する医療行為を容認する判断を判決として確定させるべきではない。医療水準に反する行為を判決として確定させることは、医療水準に対する法律判断が「2つ」存在することになり法的秩序が混乱する。医療水準に対する法律判断を統一すべきである。また、憲法81条の規定により医療水準に反する医療行為を容認した原審の判断が、法の下の平等を規定する憲法14条1項に適合するか否かについて御庁が判断されるべきである(上告受理申立て理由1)。
2.医師が独自の見解に基づく独自の治療法を独断で選択・決定し、患者に治療方法の選択の機会を一切与えないことは認められない。患者が他の治療方法について質問し、また、特定の治療方法について言及しているにもかかわらず、医師が患者の意思を完全に無視し、独断で治療方法を決定することを容認する判断を判決として確定させるべきではない。医師が検査結果を故意に隠蔽することによって患者の自己決定権を侵害することは認められない(上告受理申立て理由2)。
3.医師がMRSA感染症を認識し、これに対しバンコマイシンを投与しないことに因るMRSA感染増悪を判っていながら治療を一切開始しないことは認められない。MRSA感染増悪を認識しておきながらこれに対してバンコマイシンを投与しないことに因るMRSA感染増悪を容認する判断を判決として確定させるべきではない(上告受理申立て理由3)。
4.患者の自己決定権を侵害することは認められない(上告受理申立て理由4)。
5.添付文書を遵守せず特段の合理的理由を示すことなく独自の見解に基づき薬剤を使用することは認められない(上告受理申立て理由5)。
6.抗菌薬投与前に問診をせず、また、抗菌薬投与後の経過観察を怠ることは認められない(上告受理申立て理由6)。
7.明らかな因果関係があるにもかかわらずこれを否定することは認められない(上告受理申立て理由7)。
8.認定事実と矛盾する書証を特段の事由を明示することなく排斥することは認められない(上告受理申立て理由8)。
9.医療の名に値しない行為に対する判例がないので、御庁がこれに対し判断を下される必要がある(上告受理申立て理由9)。
10.申立人が原審にて新たに提出した証拠等に基づく主張に対し、相手方(被控訴人)は明白な答弁をせず、また、判断の遺脱がある(上告受理申立て理由10~12)。
11.申立人のこれまでの主張に対し、相手方(被控訴人)は答弁をせず、また、判断の遺脱がある(上告受理申立て理由13~14)。
12.申立人のこれまでの主張に対し、判断の遺脱がある(上告受理申立て理由15~21)。
13.判決の証拠が虚偽証言に基づくことは認められない(上告受理申立て理由22)。
上告受理申立ての理由
【本件の概要】
第1 事案の概要
 本件は、平成21年(以下、平成21年であるときは、その記載を省略する。)4月24日右膝痛が増強したとして、相手方の開設する北里大学病院(以下「本件病院」という。)整形外科を受診したところ、本件病院医師ら(本件病院にて申立人の診療にあたった医師及び看護師らを総称して「本件病院医師ら」という。)による医療水準に反する本件第1手術(デブリドマン・持続洗浄)の結果、申立人をMRSA右化膿性膝関節炎、骨の感染、MRSA右膝骨髄炎に罹患させ、本件病院医師らの不適切な抗菌薬投与により、VRSA(バンコマイシン耐性黄色ブドウ球菌)患者に至らしめ、その結果、右膝MRSA感染症に対する治療は不可能な状態に陥り、右下肢 膝関節 機能全廃となり、MRSA右膝慢性骨髄炎に至った(甲A1号証、甲A2号証)。
 また、右膝は悪化するのみであり右膝疼痛は増強し、右膝MRSA感染再燃悪化の場合には、生命の保証はなく、骨切り固定術又は切断を苦慮する病態に陥っているとして、申立人は相手方に対し、不法行為又は債務不履行に基づく損害賠償として、治療関係費、逸失利益、慰謝料等の合計1憶2000万円及びこれに対する平成25年5月2日(訴状送達日の翌日)から支払済まで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払いを求める事案である。
第2 原判決の問題
1.原判決は、申立人の主張に対し判断をしていない部分がある。そこで、原判決が判断していない部分については一審判決を踏襲したものとみなし、これに対し判例違反その他の法令の解釈に関する重要な事項について述べる。
2.原判決は、複数の判例に違反した判断をし、申立人の主張する主要事実を証明する証拠となる書証について理由を明示することなく排斥した。
3.原判決の中でとりわけ問題となる「医療水準に対する判断」、「説明義務に対する判断」及び「自己決定権に対する判断」は、判例違反、憲法違反、その他の法令に違反し、時代の趨勢に逆行する判断である。
4.本件病院医師らの申立人に対する行為は、医療水準に反する。医療水準に反する医療行為を容認する原審の判断を判決として確定させることは、医療水準に対するこれまでの法的秩序を崩壊させることになり、これは社会・経済に重大な悪影響を及ぼすものである。
5.唯一の証拠方法を排斥し、認定することは、適法に確定された事実ではない。
6.自白は裁判所を拘束する。よって、本件病院医師らが、右膝MRSA感染を認識し、バンコマイシンを投与しないことに因る右膝MRSA感染増悪を証言し自白したにもかかわらず、これを不適切であると判断しないことは右膝MRSA感染増悪を容認していることに等しい。原判決は、著しく正義に欠ける。
7.本件第2手術説明同意書が、「偽造文書」であることについて判断をしていない。本件第2手術前の説明及び造影MRI検査について、UK医師は説明していないと証言し、本田知成裁判長(一審)もこれを確認した。原審は自白と異なる事実認定をしているがこれは違法である。本件第2手術において、説明なく新たに大腿骨内側顆約5cm切開を加えたことは相当の問題である。
8.医学文献の証明力を否定し、また、MRI画像・レントゲン画像の証明力を否定し、さらに、申立人元代理人弁護士3名らによって確認された「看護記録改竄・隠蔽」を否定してこれら客観的な書証を証拠として採用しないことは、証拠の証明力を否定することになる。
9.原判決は、「看護記録改竄・隠蔽」を認定判断していない。看護記録改竄・隠蔽は証明妨害であり説明義務違反である。説明義務違反は憲法13条違反である。
10.原審にて新たに提出した証拠に基づく主張について、原審は、「控訴人が当審において追加又は敷衍した主張」に記載せず、かつ判断をしていない。また、証拠の評価が訴訟の勝敗を決する書証を特段の事由を明示することなく排斥した。
11.主要事実についてこれまでの申立人の主張に対し、相手方は答弁をしていない。また、これについて判断の遺脱がある。
12.原判決の補正として、「「なお、持続洗浄が開始された時期については、後記のとおり争いがある。」を加える。」との記載があるが、「争い」がある事実を「前提事実(以下の事実は、当事者間に争いがない。)」に記載するのは不適切である。
13.判決の証拠に虚偽証言を採用した。
14.医学文献に基づく申立人の主張事実に比し、本件病院医師らの証言に依拠した判断に基づく判決は、著しく公正さに欠ける。
15.医学的知見について明瞭にする必要がある場合、例えば、本件病院入院前に採取の関節液撮影写真から関節液が「ただの水であり化膿性ではない」事実、右膝MRI画像から本件病院入院中に「骨髄炎」に罹患の事実、本件病院医師らの不適切な抗菌薬投与に因りVRSA(バンコマイシン耐性黄色ブドウ球菌)患者となった事実、ステロイドパルス療法(大量のステロイド投与)実施の事実、ザイボックス処方の重大な問題、胸部レントゲン画像からARDSを発症の事実、右膝半月板消失・右膝前十字靭帯ほぼ消失の事実その他について、手続保障の観点から、争点に関する判断にとって重要性を有する事項については、鑑定を実施し、事案を解明すべきである。
第3 小括
1.判例法理に従い、医療水準の法律判断は1つであるべきである。
2.医療の名に値しない事件について判例がないので、御庁がこれについて法律判断を下されるべきである。
3.原判決は明らかにこれまでの最高裁判所判例と相反する判断があり、法令の解釈に関する重要な事項を含むものであるから、上告受理を求める。
4.また、原判決は再審事由があり、判決に影響を及ぼす重要な事項について判断を遺脱し、虚偽証言が判決の証拠となっている等の違法がある。これらの違法は、原判決に影響を及ぼすことが明らかである。よって、民訴法325条2項に基づき破棄されるべきである。
第Ⅰ部 医療水準について法律判断の統一の必要性及び憲法適合性の有無
第1 はじめに
1.医師の注意義務の判断基準たる「医療水準」の法律判断、すなわち、法令解釈の統一がなされないとA裁判所とB裁判所で異なる判断がなされる結果になり、法的秩序が混乱する。「同種の事件には、同一の解決を」という法的安定性・平等の要請から、同様の事件であるにもかかわらず、異なる判断をすることは平等な取り扱いに反する。医師の注意義務の判断基準たる「医療水準」についての法令解釈の統一は、社会の進むべき方向性について影響を与え、当該事件のみならず類似の事件でも問題となる重要事項であり、また、これによって判決の結論が変わるものである。
2.本件第1手術及び持続洗浄(本件第1手術・本件第2手術)は、医療水準に反する医療行為である。これを認定判断していないかまたは本件第1手術及び持続洗浄(本件第1手術・本件第2手術)を容認した一審判決を是認した原判決は、明らかにこれまでの最高裁判例と相反する判断をしており、法令の解釈に関する重要な事項を含むものである。また、医療水準に反する本件第1手術及び持続洗浄(本件第1手術・本件第2手術)を容認した判断が憲法14条1項に適合するか否かの判断・決定を得る必要がある。よって、上告受理を求める(上告受理申立て理由1)。
第2 最高裁判所判例が判示した「医療水準」について
 医師の注意義務の判断基準たる「医療水準」について、最高裁判所は以下のとおり判示した。
1.最高裁判所第3小法廷昭和57年3月30日判決(集民第135号563頁)は、診療当時の医療水準を基準にすることを明確にしている。
2.最高裁判所第3小法廷平成8年1月23日判決(民集第50巻1号1頁)は、過失の行為基準である医療水準と医療慣行とを峻別して医療水準を具体的に設定した。平均的医師が行っている医療慣行に従った医療行為を行ったからといって、医療水準に従った注意義務を尽くしたとはいえないと判示した。医療水準の基準となるものは、医師が日常的に行っている医療行為ではなく、医薬品の添付文書や日常診療において指針とされるべき医学文献等の記載内容である。
3.最高裁判所第3小法廷平成9年2月25日判決(民集第51巻2号502頁)は、医学文献の記載内容を重視すべきであると判示し、医学文献に反する鑑定意見に基づく事実認定を経験則違反の違法があると判断した。
第3 小括
 最高裁昭和57年判決、最高裁平成8年判決及び最高裁平成9年判決が判示したとおり、医師の注意義務の判断基準たる「医療水準」とは、診療当時の医学文献等の記載内容である。
第4 原判決の問題
 本件第1手術及び持続洗浄(本件第1手術・本件第2手術)が医療水準に反する医療行為であることについて認定判断をしていないかまたは本件第1手術及び持続洗浄(本件第1手術・本件第2手術)について一審判決を是認した原判決は、医療水準について判示した最高裁昭和57年判決、最高裁平成8年判決及び最高裁平成9年判決に違反する。
第5 本件第1手術(デブリドマン・持続洗浄)及び持続洗浄(本件第1手術・本件第2手術)は、医療水準に反する医療行為であること
1.化膿性膝関節炎の疑い(又は確定診断)の場合の治療方法は、「抗菌薬の静脈投与」であることは医学文献に記載されており、これが「医療水準」である。
2.医療水準たる「抗菌薬の静脈投与」という治療方法に対して、UK医師は、「私の中では正しいとは思えないです。」と証言し、医学界において認められている医学文献に記載のある治療方法に異を唱え、独自の見解に基づいて本件第1手術を実施した(U証人調書24頁)。
3.よって、本件第1手術は、最高裁昭和57年判決、最高裁平成8年判決及び最高裁平成9年判決が判示した「医療水準」に反する医療行為である。
4.医学文献の記載内容とは全く異なる方法での持続洗浄(同上)について、同医師は、「少なくとも僕らはこの治療法をやって、」と証言し、医学文献に記載のない本件病院医師ら独自の見解に基づく、かつ独自の持続洗浄方法であることを証言し、これを認めた。また、医学文献に記載のある持続洗浄の方法について、同医師は、「それは、もうその教科書を書いた方たちの意見なので。」と証言した。「持続洗浄」の意義・目的に対する医学界の考えと同医師のそれとは根底から全く異なる。本件病院医師らが行った持続洗浄は、平均的医師でさえ実施しないきわめて異質・特異的な持続洗浄方法である(U証人調書26頁)(下線は申立人による。)。
5.よって、本件病院医師らの持続洗浄方法(同上)は、最高裁昭和57年判決、最高裁平成8年判決及び最高裁平成9年判決が判示した「医療水準」に反する医療行為である。
第6 法令の解釈に関する重要な事項を含んでいること
1.民法415条の解釈適用の誤り
 本件第1手術が医療水準に反する医療行為であることを認定しない原審の判断には、診療契約に基づき医療機関に要求される医療水準について民法415条の解釈適用を誤った違法がある。
2.民法709条の解釈適用の誤り
 申立人は、「化膿性膝関節炎の疑い」であった。「化膿性膝関節炎の疑い」の場合の治療方法は、「抗菌薬の静脈投与」である。これが医療水準に従った医療行為である。また、本件第1手術には正当性・必要性・妥当性を一切認めないから、同手術によって約17cmもの切開を加えたことは不法行為である。4月24日、本件病院入院前、UK医師は「10cm程の切開」と説明した。本件第1手術記録にも「約10cmの皮切」と記載がある。切開範囲が術前と異なるのみならず、手術記録とも異なるものである。
 医療水準に従った適切な医療行為を受ける権利侵害及び約17cmもの不法な切開を認定しない原審の判断には、民法709条の解釈適用を誤った違法がある。
第7 小括
1.医療水準について統一的見解の必要性
 本件第1手術及び持続洗浄(本件第1手術・本件第2手術)は、医療水準に反する医療行為であることについて認定判断をしていないかまたはこれについて一審判決を是認した原判決は、医師の注意義務の判断基準たる「医療水準」について判示した最高裁昭和57年判決、最高裁平成8年判決及び最高裁平成9年判決に違反する。判例法理に従うという観点から、医療水準について統一的見解を得る必要がある。
2.憲法14条1項に適合するか否かの判断・決定の必要性
(1)「医療水準」に従った適切な医療行為を受ける患者と「医療水準」に反する不適切な医療行為を受ける患者とが存在することは不平等である。「医療水準」に従った適切な医療行為を受けることができない患者は、平等な医療を受ける権利を侵害され、これは法の下の平等を規定する憲法14条1項に違反する。
(2)そこで、憲法14条1項規定の重要性に鑑み、医療水準に反する本件第1手術及び持続洗浄(本件第1手術・本件第2手術)を容認する原審の判断が、憲法14条1項に適合するか否かを御庁が判断される必要がある(憲法81条)。
第Ⅱ部 判例違反
第1章 判例違反(1)
第1 はじめに
 説明義務違反について判断をしていないかまたはこれを否定した一審判決を是認した原判決は、最高裁判所第3小法廷平成13年11月27日判決(民集第55巻6号1154頁)と相反する判断があり、法令の解釈に関する重要な事項を含むものであるから、上告受理を求める(上告受理申立て理由2)。
第2 原判決の問題
 説明義務違反を認めない原審の判断に誤りがある。
第3 最高裁判所判例が判示した「説明義務を基礎づける説明内容」について
 最高裁判所第3小法廷平成13年11月27日判決(民集第55巻6号1154頁)は、手術実施に当たり、当該疾患の診断(病名と病状)、実施予定の手術の内容、手術に付随する危険性、他に選択可能な治療方法があれば、その内容と利害得失、予後などについて説明義務があると判示した。
第4 本件第1手術の説明義務違反
1.UK医師は、同医師独自の見解に基づいて本件第1手術を独断で決定した。「化膿性膝関節炎の疑い」の場合の治療方法について、「(抗菌薬の静脈投与が)存在しますけれども、私の中では正しいとは思えないです。」と証言したことから明らかである(U証人調書24頁)(下線は申立人による。)。
2.本件病院医師らは、「化膿性膝関節炎の疑い」の治療方法が、「抗菌薬の静脈投与」であることを説明しなかったので、申立人には治療方法を選択する余地は一切なかった。
3.また、「2週間」の入院予定であり、本件第1手術について簡単な手術との説明であり、危険性・合併症について一切説明はなかった(乙A1号証の29頁)。
4.よって、本件第1手術について説明義務違反がある。
第5 小括
 本件病院医師らが独自の見解に基づいて本件第1手術実施を独断で決定し、本件第1手術の危険性・合併症についての説明義務違反を認定しない原判決は、最高裁平成13年判決に違反する。
第6 法令の解釈に関する重要な事項を含んでいること
1.憲法13条違反
(1)本件病院独自の見解に基づいて本件第1手術を独断で決定し、本件第1手術以外の治療方法について一切説明しなかったので、申立人には治療方法を選択する余地が全くなかった。申立人は、「化膿性膝関節炎の疑い」の場合の治療方法である「抗菌薬の静脈投与」という適切な治療方法を選択する自己決定権を侵害された。これは、自己決定権を保障する憲法13条違反である。
(2)4月24日、本件病院医師らは、本件病院入院当日判明の検査結果を故意に隠蔽した。申立人は、滑膜炎及びグラム染色陰性の検査結果の意義を理解しているので、これらの検査結果を知っていれば、本件第1手術を明確に拒否していた。本件病院医師らが、同日判明の検査結果を隠蔽したことにより、自己決定権を侵害された。これは、憲法13条違反である。
2.民訴法247条違反
(1)UK医師は、「絶対に治る、どこまでやればもう治るということが感染症の場合分りませんので、経過を見ながら、経過を見て治っていかないときにはまた手術をする必要が出てくるということもお話しています。」と虚偽の証言をした(U証人調書9頁)。
(2)本件第1手術前から、「どこまでやれば絶対とはいえない。2週間の入院予定でありながら、数回の手術を実施する予定がある。」との説明があれば、手術結果の不確実性及び手術の失敗を示唆していると考えるのが常識であり、本件第1手術を明確に拒否するという常識的経験則がある。つまり、UK医師の本件第1手術の危険性・合併症の説明について、常識的経験則に反する事実認定は違法である(民訴法247条)。
3.民法415条の解釈適用の誤り
 本件第1手術について説明義務を怠った説明義務違反がある。原審の判断には、診療契約上の説明義務について民法415条の解釈適用を誤った違法がある。
4.民法645条の解釈適用の誤り
 4月24日、本件病院入院当日に判明していた検査結果を故意に隠蔽し、化膿性膝関節炎の疑いの場合の治療方法等について説明を怠った説明義務違反がある。よって、原審の判断には、診療契約上の説明義務について民法645条の解釈適用を誤った違法がある。
5.医療法(昭和23年7月30日法律第205号)1条の4第2項違反
 4月24日、本件病院入院当日に判明していた検査結果を故意に隠蔽し(UK医師は連休で検査技師がいないので検査できないと説明した。)、化膿性膝関節炎の疑いの場合の治療方法等について説明を怠ったことは、医療を提供するに当たり適切な説明を行うことを規定する医療法1条の4第2項違反である。
6.保険医療機関及び保険医療養担当規則(以下「療養担当規則」という。)(昭和32年4月30日厚生省令第15号)20条5項違反
 本件第1手術は正当性・必要性・妥当性は一切ない。よって、本件第1手術を実施したことは、手術は必要があると認められる場合に行うことを規定する療養担当規則20条5項違反である。
7.民訴法181条1項の解釈適用の誤り
(1)4月24日、UK医師はカルテに一切記載していない。同日SK医師は、「U先生から、御両親、御本人へI.C.」と虚偽の記載をしている。
(2)そこで、本件第1手術の危険性・合併症についてのUK医師の証言が虚偽である事実、すなわち、本件第1手術の危険性・合併症その他について説明をしなかった特定の主要事実を立証するための唯一の証拠方法として、申立人は、証拠申出書(平成26年6月16日付及び平成27年4月29日付)を提出し、SK医師の証人尋問を申出た。
(3)ところが、証拠申出書(平成26年6月16日付及び平成27年4月29日付)は、いずれも排斥された。
(4)最高裁判所第1小法廷昭和53年3月23日判決(集民第123号283頁)は、唯一の証拠方法の申出を排斥し、これを申し出た当事者の主張事実について証明がないとしてその当事者に不利な認定をした判決は、証拠の採否に関する法の解釈適用を誤った違法があると示した。
(5)以上のことから、特定の争点について、唯一の証拠方法の申出を排斥し、これを申し出た申立人の主張事実を認めず、UK医師の証言のみに依拠し、本件第1手術の危険性・合併症に関する説明について事実認定をした原審の判断は、証拠の採否に関して、民訴法181条1項の解釈適用を誤った違法がある。
8.民訴訟149条違反
(1)UK医師は、「僕らは化膿性膝関節炎に対しては、関節鏡視下にはやらない方針でいます。」と証言した。しかし、本件第2手術において、関節鏡を使用している。申立人はUK医師に対し、本件第1手術ではなくA/S(関節鏡視下手術)による治療について自己への適応及び実施可能性について特に強い関心を明確に伝えた事実がある。これは、自己決定権を保障する憲法13条に関わる重要事項である(U証人調書60~61頁、本人調書3頁、甲A85号証の2頁)。
(2)MRSA化膿性膝関節炎のバンコマイシンの有効率は100%であることからすれば、バンコマイシンを適切に使用していれば、MRSA化膿性膝関節炎は完全に治癒していたはずである(甲B66号証)。
ところが、UK医師は、感染症の治療の不確実性を強調している。
(3)そこで、UK医師のA/Sに対する言動の矛盾及び感染症に対する医学界における見解と同医師のそれとが全く異なることについて、原審は、釈明権を行使し、事案を解明すべきであった。
(4)本件病院医師らは、本件第1手術前予防的抗菌薬を投与せず、また、院内感染防止マニュアルに従っていない。
 予防的抗菌薬を投与しない特段の合理的な理由は一切ない。UK医師は、申立人には化膿性膝関節炎の疑いはなかったことを認識していたことを示唆する興味深い証言がある。それは、セファゾリンが有効な感染症の有無を想定していたかどうかに対する尋問に対し、同医師は、「そこまでは、そうかと言われると、」と証言したことである。「化膿性膝関節炎の疑い」の場合には、「黄色ブドウ球菌」を想定して「セファゾリン」を選択しなければならないが、UK医師の証言から、化膿性膝関節炎の疑いを想定していないことになる。このことから化膿性膝関節炎の疑いは全くなかったと結論付けることができる(U証人調書32、46、48頁)(下線は申立人による。)。
同医師証言の矛盾について原審はこれを指摘していない。医療水準に従った感染防止対策が全く講じられていない問題について、原審は釈明権を行使し、事案を解明すべきであった。
(5)原審がこのような措置に出ることなく、UK医師が独自の見解に基づいて独断で治療方法を決定した事実、バンコマイシンを適切に投与していれば、MRSA化膿性膝関節炎は治癒していたこと、感染防止義務違反があることについての申立人の主張を排斥したのは、釈明権の行使を怠り、民訴法149条違反である。また、審理が尽くされていない違法がある。
第7 小括
 以上によれば、説明義務違反について判断をしていないかまたはこれを否定した一審判決を是認した原判決は、最高裁判所第3小法廷平成13年11月27日判決(民集第55巻6号1154頁)と相反する判断をしており、憲法13条、民訴法149条、民訴法247条、医療法1条の4第2項、療養担当規則20条5項に違反し、民法415条、民法645条、民訴法181条1項の解釈適用を誤った違法があり、これらの法令違反の結果、審理の尽くされていない部分が存在し、その部分に対する判断が欠けることになるので、理由不備の違法があり、この違法は原判決の結論に影響を及ぼすことが明らかである。
第2章 判例違反(2)
第1 原判決の問題
 バンコマイシンを早期に投与しなかった注意義務違反及び科学的評価(菌の同定結果)に基づかない抗菌薬使用が不適切であることを認定しない原判決の判断には誤りがある。原判決は、最高裁判所第2小法廷平成18年1月27日判決(集民第219号361頁)と相反する判断があり、法令の解釈に関する重要な事項を含むものであるから、上告受理を求める(上告受理申立て理由3)。
第2 バンコマイシンの早期投与及び科学的評価に基づく抗菌薬使用について
 最高裁判所第2小法廷平成18年1月27日判決(集民第219号361頁)は、「MRSA感染症又はその疑い例に対しては、平成5年当時も現在もバンコマイシンが第1選択薬であるのは世界的な標準であり、」と判示され、「MRSA感染症の発症を予防するためには、科学的評価に基づく適正な種類の抗生物質のみを使用すべきである」と判示した。
第3 小括
 最高裁平成18年判決は、①MRSA感染症またはその疑い例に対して、バンコマイシンを投与し、②MRSA感染症の発症を予防するためには、科学的評価に基づく適正な種類の抗菌薬のみを使用すべきであると判示した。
よって、4月30日、本件病院医師らが右膝MRSA感染を認識・把握しておきながら、同日バンコマイシンを直ちに投与しなかった注意義務違反及び科学的評価に基づかないMRSAに耐性のペニシリン系ビクシリン継続投与が不適切であることを認定しない原判決は、最高裁平成18年判決と相反する判断である。
第4 法令の解釈に関する重要な事項を含んでいること
1.民訴法179条違反及び民訴法149条違反
(1)右膝MRSA感染症の認識時点について、UK医師は、「4月30日です。」と証言し、また、右膝MRSA感染症判明後も、バンコマイシンを投与しないことに因る右膝MRSA感染増悪について、同医師は、「あると思います。」と証言し、これを認めた。自白である(U証人調書32、34頁)(下線は申立人による。)。
 裁判所はその自白に拘束され、自白どおりの事実認定をしなければならない。UK医師の自白した事実は証明する必要がない。証明不要効である(民訴法179条)。
(2)よって、4月30日、本件病院医師らが右膝MRSA感染を認識・把握しておきながらバンコマイシンを投与せず、これに因る右膝MRSA感染増悪を認識していた確定事実を認定しないことは、民訴法179条違反である。
(3)そこで、原審は、釈明権を行使し、①4月30日、右膝MRSA感染を認識・把握した当日バンコマイシンを投与開始すべき注意義務を怠ったこと、②同日、バンコマイシンを投与しないことに因る右膝MRSA感染増悪を認識・把握しておきながらバンコマイシンを投与開始しなかったこと、③MRSA感染判明後も科学的評価に基づかず、かつMRSAに耐性のペニシリン系ビクシリンの継続投与を容認したことの問題を指摘し、審理を尽くして事案の解明をすべきであった。
 原審がこのような措置に出ることなく、いかに遅くとも4月30日にバンコマイシンを投与開始すべきであったとの申立人の主張を排斥したのは釈明権の行使を怠り、民訴法149条違反である。また、審理が尽くされていない違法がある。
2.民訴法247条違反
(1)4月27日、セファゾリンが奏功しないことにより起因菌は「MRSA」である。これは専門的経験則である。セファゾリンが奏功しないと判明した4月27日にバンコマイシンを投与すべき注意義務を怠った注意義務違反があり、これを認定しない原判決の判断には専門的経験則に反する違法がある(民訴法247条)。
(2)最高裁平成18年判決が判示した「MRSA感染疑い」時点である4月27日にバンコマイシンを投与すべきことは経験則である。4月27日にバンコマイシンを投与すべき注意義務を怠った注意義務違反があり、これを認定しない原審の判断には経験則に反する違法がある(民訴法247条)。
(3)意見書に「(4月28日)ペニシリン系の抗生剤に変更しているが、もっと早期にVCM(バンコマイシン)に変更すべきであった。」と記載がある(甲B1号証)。
同意見書を使用しないことは採証法則違反である。早期にバンコマイシンを投与すべき注意義務を怠った注意義務違反があり、これを認定しない原審の判断には採証法則に反する違法がある(民訴法247条)。
(4)4月30日、グラム陽性菌検出の場合、即日バンコマイシンを投与すべきことは専門的経験則である。4月30日にバンコマイシンを直ちに投与すべき注意義務を怠った注意義務違反があり、これを認定しない原審の判断には専門的経験則に反する違法がある(民訴法247条)。
(5)4月30日、右膝MRSA感染を認識・把握しておきながらバンコマイシンを投与せず、また、バンコマイシンを投与しないことに因る右膝MRSA感染増悪を認識・把握しているのであれば、直ちにバンコマイシンを投与すべきである。これは経験則である。4月30日にバンコマイシンを直ちに投与すべき注意義務を怠った注意義務違反があり、これを認定しない原審の判断には経験則に反する違法がある(民訴法247条)。
(6)バンコマシン投与開始は、「5月10日」である(甲A21号証)。
原判決は、「バンコマイシン投与を本件第2手術中から投与していたものと認められる。」と認定したが、抗菌薬投与・細菌培養一覧について、相手方は、「現在確認中である。」としたままである(平成26年3月14日付被告第3準備書面13頁)。
 また、バンコマイシン投与開始「3日後」に実施するはずの「TDM」について、UK医師は、「記録はありませんので」と証言した(U証人調書34頁)(下線は申立人による。)
 虚無証拠による事実認定は採証法測違反である(判時2115号12頁)。なお、申立人は、必要な「抗菌薬投与・細菌培養一覧」及び「TDM」を入手すべく、文書提出命令申立書(平成26年1月18日付、平成27年4月29日付)を提出したがいずれも採用されなかった。
 結局、「抗菌薬投与・細菌培養一覧」は、「現在確認中」であり、バンコマイシン投与開始3日後に実施するはずの「TDM」は「ありません」としていずれも証拠とし提出されていない。
 よって、「バンコマイシン投与を本件第2手術中から投与していたものと認められる」とした原審の認定には採証法測に反する違法がある。採証法則に反する事実認定は、民訴法247条違反である。
3.民法415条の解釈適用の誤り
 右膝MRSA感染を認識・把握した4月30日にバンコマイシンを即日投与開始すべきところこれを怠った注意義務違反があり、これを認定しない原審の判断には診療契約に基づき医療機関に要求される医療水準について民法415条の解釈適用を誤った違法がある。
4.民法709条の解釈適用の誤り
 右膝MRSA感染を認識・把握した4月30日にバンコマイシンを即日投与開始すべき医療水準に従った適切な医療行為を受ける権利を侵害されたことによって被った損害を賠償すべき不法行為責任を負うものであり、これを認定しない原審の判断には民法709条の解釈適用を誤った違法がある。
5.保険医療機関及び保険医療養担当規則(昭和32年4月30日厚生省令第15号)(以下、「療養担当規則」という。)16条違反
 本件第1手術後、CRPは高度上昇をし続け4月30日のCRPは、「29.75」となりその後も上昇した。患者によっては、既に「死亡」レベルの数値である。
UK医師は、CRPを毎日確認したと供述し、「あれあれっと思ってはいるわけですよね。ただ、あれあれっと思っていても」と証言した(U証人調書32頁)(下線は申立人による。)。
療養担当規則16条は、「診療について疑義があるときは、他の保険医の対診を求める等診療について適切な措置を講じなければならない。」と規定する。
そこで、UK医師は、瀕死の容態に陥っている申立人を「あれあれっと」と漫然と観察するのみに留まるのではなく、感染症専門医に対診すべきであった。同医師が対診を怠ったことは、療養担当規則16条違反である。
6.最高裁平成17年判決の補足意見
(1)最高裁判所第1小法廷平成17年12月8日判決(集民第218号1075頁)の補足意見は、「医師の検査、治療等が医療行為の名に値しないような例外的な場合には、「適切な検査、治療等の医療行為を受ける利益を侵害されたこと」を理由として損害賠償責任を認める余地がないとはいえない」と示した。
(2)化膿性膝関節炎は急速に進行し治療のわずかな遅れでも重篤な結果をもたらし、患肢だけでなく生命をも脅かす救急疾患である。
4月30日、右膝MRSA感染を認識・把握しておきながらバンコマイシンを投与せず、また、バンコマイシンを投与しないことに因る右膝MRSA感染増悪を認識・把握しているのであれば、バンコマイシンを即日投与して治療を開始しなければならない。右膝MRSA感染増悪を判っていてバンコマイシンを投与しなかったことは治療とはいえない。
(3)救急疾患である右膝MRSA感染及び低い治癒率である骨の感染ということからすれば、本件病院医師らがバンコマイシンを4月30日直ちに投与開始しなかったことに因り、申立人の「治癒可能性を奪った」ことは明らかである。
(4)4月30日、右膝MRSA感染増悪を認識しておきながらバンコマイシンを投与せず、右膝MRSA感染症の治療を一切開始せず、MRSAに耐性のペニシリン系ビクシリン継続投与容認はMRSAを増殖させるに過ぎず、右膝MRSA感染増悪を容認していることに等しいことである。
院内感染対策指導医 M医師は、5月1日、「activeな感染症があります」とし、「(MRSA耐性のペニシリン系)ビクシリン」を本件第2手術後まで継続投与を容認した(乙A1号証の44頁、乙A2号証の3頁)。
右膝MRSA感染症を治療するどころか、右膝MRSA感染を増悪させるペニシリン系ビクシリン継続投与容認は医療行為の名に値しない。
(5)5月7日~6月1日、右膝MRSA感染症に対し、MRSAに耐性のテトラサイクリン系クーペラシンを長期継続投与した。これは右膝MRSA感染症を増悪させるものである(甲B77号証、甲B5号証、甲B158号証)。
MRSA感染症に対し、MRSAに耐性の抗菌薬を使用することは、MRSA感染症を増悪させるのみであり医療行為の名に値しない。これは申立人の健康を否定するものであり、「健康で文化的な生活」の保障を規定する憲法25条違反である。
(6)右膝MRSA感染を認識・把握しているにもかかわらず、右膝MRSA感染増悪をもたらすMRSAに耐性の抗菌薬継続投与を不適切であると認定しない原審の判断を判決として確定させるべきではない。
第5 小括
 以上によれば、バンコマイシンを早期に投与しなかった注意義務違反及び科学的評価に基づかない抗菌薬使用が不適切であることを認定しない原判決は、最高裁判所第2小法廷平成18年1月27日判決(集民219号361頁)と相反する判断をしており、憲法25条、民訴法149条、民訴法179条、民訴法247条、療養担当規則16条に違反し、民法415条、民法709条の解釈適用を誤った違法があり、これらの法令違反の結果、審理の尽くされていない部分が存在し、その部分に対する判断が欠けることになるので、理由不備の違法があり、この違法は原判決の結論に影響を及ぼすことが明らかである。
第3章 判例違反(3)
第1 はじめに
 自己決定権の侵害を認めない原判決は、最高裁判所第3小法廷平成12年2月29日判決(民集第54巻2号582頁)(いわゆる[エホバの証人事件])に違反し、法令の解釈に関する重要な事項を含むものであるから、上告受理を求める(上告受理申立て理由4)。
第2 原判決の問題
 自己決定権の侵害を認めない原判決の判断に誤りがある。
第3 最高裁は患者の自己決定権を認めていること
 最高裁判所第3小法廷平成12年2月29日判決(民集第54巻2号582頁)(いわゆる[エホバの証人事件])は、患者の自己決定権を認め、患者の自己決定権は医師の裁量権より優先することを明確にしている。
第4 小括
 5月2日、申立人がUK医師に対しステロイドパルス療法(ステロイド投与)拒否を明確かつ確定的に意思表示したにも関わらず、同医師はステロイドパルス療法(ステロイド投与)を実施した(甲A32号証、本人調書8頁)。
これは、自己決定権の侵害である。よって、自己決定権の侵害を認めない原判決は、最高裁平成12年判決に違反する。
第5 法令の解釈に関する重要な事項を含んでいること
1.憲法13条違反
 5月2日、ステロイドパルス療法(ステロイド投与)拒否を明確かつ確定的に意思表示したにもかかわらず、ステロイドパルス療法(ステロイド投与)を実施した。自己決定権の侵害は、憲法13条違反である。
2.民訴法247条違反
(1)ステロイド投与に因る免疫抑制作用及び感染中のステロイド投与に因る感染増悪は公知の事実である(民訴法179条)。
当然のことながら、感染中にステロイド投与の説明があればこれを拒否するという常識的経験測がある。
(2)したがって、原審が、「ステロイドの投与を拒否した事実を認めるに足りる証拠はない。」と認定したことは、常識的経験則に反する事実認定であり違法である(民訴法247条)。
3.民訴法149条違反
(1)申立人がステロイドパルス療法(ステロイド投与)拒否を明確かつ確定的に意思表示したにもかかわらずこれを実施したことについて、申立人は陳述書に記載し、また、ステロイドパルス療法(ステロイド投与)拒否の自己決定権侵害について、これまで準備書面及び争点整理メモに記載し主張し続けてきた。自己決定権侵害について一審判決にも記載がある(甲A32号証、争点整理メモ15頁、一審判決16頁)。
(2)原判決は、「U医師が「バンコマイシンは投与しない。ステロイドパルス療法を優先する。」と言ったというものであるところ、当該供述を裏付ける証拠はなく、」と認定している(判決4頁)。
(3)そうであれば、原審は、申立人に対し、改めて同医師の証人尋問について証拠申出をするかどうかについて釈明権を行使すべきであった。原審がこのような措置に出ることなく、申立人の主張事実を排斥したのは、釈明権の行使を怠った違法がある(民訴法149条)。
4.反対尋問権について
(1)最高裁判所第2小法廷昭和32年2月8日判決(民集第11巻2号258頁)補足意見は、「反対訊問の機会を与えない供述は、その後の再訊問と相俟つか、または反対訊問権者において積極的にその訊問権を拠棄したものと認められる場合でない限り、主訊問による供述だけでは、一方的な訊問でいまだ完結しない、供述としては未完成なものと解すべきであり、」と示した。
(2)証人尋問について申立人に与えられた尋問時間は著しく制限(「5~10分」)された(平成26年9月4日の本件第9回口頭弁論期日プロセスカード)。
これに対し、申立人は、尋問時間の配分について「上申書」(平成26年9月17日付)及び「調書の記載異議申立書」(平成26年10月3日付)を提出した。
(3)与えらえた尋問時間は「15分」となったが、その限られた尋問時間内に裁判所主導の尋問内容と重複しないように、尋問当日、尋問内容を適宜取捨選択するという状況であった。結果として、反対尋問権は著しく制限させることになった。
(4)交互尋問制度の下では、反対尋問によって証言の真実性が担保されるから、反対尋問の権利行使の機会が必要かつ十分に与えられなければ、その証言には証拠力がないと解すべきである。ステロイドパルス療法実施について十分な反対尋問がなされていない。
よって、UK医師が「(ステロイド)パルス療法ではありません。」と証言したその証言には証拠力がないと解すべきである(U証人調書44頁)。
(5)また、「ステロイドパルス療法」とカルテに記載があることについて、U医師は、「書き間違いですね。はい。これは、もう明らかに書いた人のミスです。」と証言した(U証人調書44頁)(下線は申立人による。)。
しかし、6月1日MT UK医師と同席し、同医師の説明を聞きながらこれを筆記・記録していた(文責)MY医師を呼び出さず、すなわち、同医師の証人尋問を実施することなく、UK医師の証言にのみ依拠した証拠を採用することは、適法に確定された事実とは言えず違法である(民訴法321条1項)。
5.鑑定要否について
(1)「5月1~3日、大量のステロイドステロイドパルス療法)が投与されていたはずである。」と複数の医師らが指摘している。申立人はこれを証明するために、鑑定申出書(平成26年8月25日付、平成27年4月29日付)を提出したがいずれも採用されず事案が不明瞭のままであり、審理不尽の違法がある。
(2)UK医師がステロイド投与に因る右膝MRSA感染増悪を認識・把握していることを証言していたことからすれば、ステロイド投与の問題だけでなくステロイドパルス療法(大量のステロイド投与)を実施した根拠を明瞭にする必要がある。右膝MRSA感染を増悪させてまで大量のステロイド投与の目的が全く不明である(U証人調書37頁)。
(3)手続き保障の観点から、ステロイドパルス療法(ステロイド投与)という争点に関する判断にとって重要性を有する医学的知見については、鑑定を実施することが望まれる事案であることは当然である(甲C40号証)。
第6 小括
 以上によれば、ステロイドパルス療法(ステロイド投与)拒否の自己決定権の侵害を認めない原判決は、最高裁判所第3小法廷平成12年2月29日判決(民集第54巻2号582頁)(いわゆる[エホバの証人事件])に違反し、憲法13条、民訴法149条、民訴法247条に違反し、これらの法令違反の結果、審理の尽くされていない部分が存在し、その部分に対する判断が欠けることになるので、理由不備の違法があり、この違法は原判決の結論に影響を及ぼすことが明らかである。
第4章 判例違反(4)
第1 はじめに
 添付文書違反を認定しない原判決は、最高裁判所第3小法廷平成8年1月23日判決(民集第50巻1号1頁)に違反し、法令の解釈に関する重要な事項を含むものであるから、上告受理を求める(上告受理申立て理由5)。
第2 原判決の問題
1.ステロイド投与について
 感染中のステロイド投与につき、ステロイドプレドニン)の添付文書を無視し、「特段の合理的理由」を示すことなく同剤投与を容認し、同剤添付文書違反を認定しない原判決の判断には誤りがある(甲B79号証)。
2.ザイボックス処方について
(1)添付文書に記載のあるとおり、MRSA関節炎・MRSA骨髄炎の治療薬は、バンコマイシンでありザイボックスではない(甲B65号証、甲B69号証)。
(2)ザイボックスの添付文書の【警告】に記載のある「適正使用」を無視し、根拠なく、かつ「特段の合理的理由」を示すことなくザイボックスを処方した(甲B163号証)。
(3)その結果、全ての抗MRSA薬に耐性となり、VRSA(バンコマイシン耐性黄色ブドウ球菌)患者となり、全ての抗MRSA薬を失った。右膝MRSA感染再燃悪化の場合には、生命存続の保証はないというきわめて重大な病態に陥っている主要事実について、原審は判断をしていない。
(4)平成21年8月27日、湘南東部総合病院整形外科NH医師は、主治医意見書に「右膝感染悪化の可能性あり」、「感染症 有 膝MRSA」と記載している(甲A4号証)。
 平成24年7月4日、FT医師(市立堺病院総合内科、感染症専門医、京都大学医学部臨床教授)は、「全ての抗MRSA薬は使用不可能な状態にあり、MRSA感染症に対する治療はできません。」と診断された(甲A48号証、甲A89号証)。
 平成24年7月30日、関東労災病院整形外科TK医師は、「全ての抗MRSA薬は使用不可能な状態にある。右膝MRSA感染に対し治療ができる状態にない。」と診断された(甲A90号証)。
(5)以上のとおり、ザイボックス添付文書の【警告】に記載ある「適正使用」を無視し、同剤添付文書違反を認定しない原判決の判断には誤りがある。
第3 添付文書違反について
 最高裁判所第3小法廷平成8年1月23日判決(民集第50巻1号1頁)は、医師が医薬品を使用するに当たって、医薬品の添付文書(能書)に記載された使用上の注意事項に従わず、それによって医療事故が発生した場合には、これに従わなかったことにつき特段の合理的理由がない限り、当該医師の過失が推定されるべきであると判示した。
第4 小括
 ステロイドプレドニン)の添付文書及びザイボックスの添付文書の【警告】に記載のある「適正使用」を無視し、「特段の合理的理由」を示すことなく、ステロイド投与及びザイボックス処方を容認し、添付文書違反を認定しない原判決は、最高裁平成8年判決に違反する。
第5 法令の解釈に関する重要な事項を含んでいること
1.民訴法179条違反
(1)UK医師は、MRSA感染中のステロイド投与に因る感染増悪を認識していることを証言した(U証人調書37頁)。
(2)同医師は、ステロイド投与後の5月16日MRSA感染増悪を認め、これを証言した。「5月11日」までステロイドを継続投与したことから、ステロイド投与に因るMRSA感染増悪は明らかである(U証人調書38頁)。
(3)すなわち、同医師は、ステロイド投与に因る右膝MRSA感染増悪を証言し、自白した。裁判所はその自白に拘束され、自白どおりの事実認定をしなければならない。同医師の自白した事実は証明する必要がない。証明不要効である。よって、ステロイド投与に因るMRSA感染増悪の確定事実を認定しないことは、民訴法179条違反である。
2.民訴法247条違反
(1)バンコマイシン添付文書に記載があるとおり、バンコマイシンは、MRSA関節炎・MRSA骨髄炎の治療薬である(甲B65号証)。
ザイボックスの添付文書の適応症には、MRSA関節炎・MRSA骨髄炎の記載はない(甲B69号証)。
甲B65号証及び甲B69号証を証拠として採用しないことは、採証法則に反する違法がある。また、平成20~23年当時、国内外の医学文献等には、MRSA骨髄炎に対して、ザイボックスを使用すべきではないことが明記されている(甲B31号証、甲B56号証、甲B102号証、甲B103号証)。
これら国内外の医学文献等を証拠として採用しないことは、採証法則に反する。
よって、ザイボックスはMRSA骨髄炎に奏功するものと認められるとした原審の判断には、採証法則に反する違法がある(民訴法247条)。
(2)原審は、セロトニン症候群について、「12日をいうものと解される」と認定している(判決5頁)。
しかし、6月11日午前8時20分頃、ザイボックス服用後にセロトニン症候群が発現し、吐き気に因り昼食及び夕食を摂取することができなかった。証拠として「摂取量」に関する記録、6月11日夕食摂取欄に、「全1/5」と記載がある(乙A1の285頁)。
これを証拠として採用しないことは、採証法則に反する。採証法則に反する事実認定は違法である(民訴法247条)。
(3)ザイボックスと抗うつ薬との併用投与に因りセロトニン症候群が発現するので併用投与は「禁忌」であることは医学文献に明記されている(甲B20号証)。
甲B20号証を証拠として採用しないことは、採証法則に反する違法がある。
よって、ザイボックスと抗うつ薬との併用投与は不適切ではないとした原審の判断には、採証法則に反する違法がある(民訴法247条)。
3.民訴法253条1項3号違反
 ザイボックス処方は誤っていることについての主要事実を認定することができる証拠である書証がある(甲B20号証、甲B65号証、甲B69号証、甲B31号証、甲B56号証、甲B102号証、甲B103号証)。
これら書証の証明力を否定するに足りる特段の事由がない限り、同書証の証明力を否定することは許されないところ、原判決は、かかる特段の事由を認定することなく、同書証を採用しなかった理由を説明していない。これは民訴法253条1項3号違反である。
4.民訴法149条違反
(1)UK医師は感染中のステロイド投与に因る感染増悪を証言した。これを認めておきながら、「特段の合理的理由」を示すことなくステロイドを投与した。UK医師の言動は矛盾している(U証人調書37頁)。
(2)MRSA感染症の治療に対し、MRSAに耐性のテトラサイクリン系クーペラシンを継続投与することだけでもきわめて重大な問題であるところ、薬疹を重篤化させるMRSA耐性テトラサイクリン系クーペラシンを継続投与しておきながら(5月7日~6月1日)、薬疹を理由としてステロイドを投与することは矛盾している(甲B77号証、甲B5号証、甲B158号証)。
(3)ザイボックスがMRSA骨髄炎に奏功するかについてUK医師は、「はい。」と証言した(U証人調書20頁)(下線は申立人による。)。
しかし、平成20年から平成23年当時、ザイボックスの骨髄炎に対するデータはほとんどなく、骨髄炎に対しザイボックス使用をするべきではないことが国内外の医学文献等に明記されている。
よって、UK医師が「ザイボックスは骨髄炎に奏功する。」として根拠は全く不明である。
(4)UK医師は、「6月11日時点、右膝MRSA感染が陰性化しておらず、治療が終わっておらず、バンコマイシン継続投与すべき状態にあったこと」を証言した。しかし、UK医師記名押印のある「診療情報提供書」には、「右膝MRSA感染が陰性化していないこと」及び「バンコマイシン継続投与の必要性」について記載はなく、また、ザイボックス処方を容認していることから、同医師の言動は矛盾している(U証人調書19、20、40頁、甲A43号証)。
(5)以上のことから、原審は、これらの矛盾及び不明について解明すべきであったところこれを怠り、ステロイド投与及びザイボックス処方は添付文書違反であることについての申立人の主張事実を排斥したのは、釈明権の行使を怠り、民訴法149条違反である。
5.民法415条の解釈適用の誤り
 ステロイド及びザイボックスの添付文書に記載された使用上の注意事項について本件病院医師らの注意義務違反を認めない原審の判断には、診療契約に基づき医療機関に要求される医療水準について、民法415条の解釈適用を誤った違法がある。
6.民法709条の解釈適用の誤り
 MRSA骨髄炎に対する適切な治療行為であるバンコマイシンの継続投与を受ける権利を侵害されたことによって被った損害を賠償すべき不法行為責任を負うものであり、これを認定しない原審の判断には、民法709条の解釈適用を誤った違法がある。
7.国際人権B規約(昭和54・8・4条7)7条違反
(1)ザイボックスの臨床試験第Ⅲ相試験において、骨髄炎患者は「除外基準」であるにも関わらず、MRSA骨髄炎に罹患していた申立人に同剤を使用したことはきわめて重大な問題である。骨髄炎患者にザイボックスを使用した場合、「プロトコル」違反である(甲B71号証)。
(2)臨床効果や理論的根拠の薄弱な試行的医療である申立人に対するザイボックス処方は実験的行為である。これは、「自由な同意なしに医学的又は科学的実験を受けない。」と規定した国際人権B規約7条違反である。
第6 小括
 以上のことから、添付文書違反を認定しない原判決は、最高裁判所第3小法廷平成8年1月23日判決(民集第50巻1号1頁)に違反し、民訴法149条、民訴法179条、民訴法247条、民訴法253条1項3号、国際人権B規約7条に違反し、民法415条、民法709条の解釈適用を誤った違法があり、これらの法令違反の結果、審理の尽くされていない部分が存在し、その部分に対する判断が欠けることになるので、理由不備の違法があり、この違法は原判決の結論に影響を及ぼすことが明らかである。
第5章 判例違反(5)
第1 はじめに
 問診義務違反及び経過観察義務違反について判断をしていないかまたはこれを否定した一審判決を是認した原判決は、最高裁判所第3小法廷平成16年9月7日判決(集民第215号63頁)に違反し、法令の解釈に関する重要な事項を含むものであるから、上告受理を求める(上告受理申立て理由6)。
第2 原判決の問題
 問診義務違反及び経過観察義務違反を認めない原審の判断に誤りがある。
第3 最高裁判所が判示した「薬剤投与に関する医師の注意義務の内容」について
 最高裁判所第3小法廷平成16年9月7日判決(集民第215号63頁)は、薬剤投与によるアナフィラキシーショックの発現に対し、薬剤の選択、投与後の経過観察、発症時の救急処置を含めた医療態勢について判示した。
第4 小括
 本件病院入院前、アレルギー症状を起こしやすい体質である旨を申告していた申立人に対し、本件病院医師らは抗菌薬に対する問診を実施せず、セファゾリン投与後の経過観察を怠り、同剤投与後アレルギー症状(薬物性肝障害・薬疹)が発現していたにもかかわらず、セファゾリンセフェム系)よりも更にアレルギー症状を重篤化させるビクシリン(ペニシリン系)を継続投与した。これを容認した原判決は、最高裁平成16年判決に違反する。
第5 法令の解釈に関する重要な事項を含んでいること
1.民訴法247条違反
(1)抗菌薬投与前に注射用抗菌薬投与に関する問診をすべきであるところ、これを怠った。
なお、「注射用抗菌薬投与に関する問診票」(乙A1号証の14頁)は偽造された(平成26年6月16日付書証否認等理由書、平成26年11月27日付書証否認等理由書)。
問診票には患者氏名の記載及び確認医師名の記載があるのが常識である。よって、患者氏名の記載及び確認医師名の記載のない文書である同問診票の成立を否定するという経験則がある。経験則に反する事実認定は違法である(民訴法247条)。
(2)セフェム系セファゾリン)よりも、ペニシリン系(ビクシリン)の方が、更なるアナフィラキシーショック症状を惹起する(甲B137号証)。
したがって、セファゾリン投与後に薬物性肝障害・薬疹を認めている以上、ペニシリン系ビクシリン継続投与を容認する原審の判断には論理法則に反する違法がある。
また、播種状紅斑丘疹型薬疹の原因薬物はペニシリン系であるから、原因薬物の投与を即時中止すべきである(甲B40号証)。
播種状紅斑丘疹型薬疹を認識・把握しておきながら、ペニシリン系ビクシリン継続投与を容認することは薬疹を更に重篤化させる結果となり、これは論理法則に反する。
したがって、ペニシリン系ビクシリン投与を不適切であると認定しない原審の判断には、論理法則に反する違法がある(民訴法247条)。
2.民訴法253条1項3号違反
(1)本件病院入院前、「卵、鶏肉、キウイ、メロン、パイナップル、枝豆、長芋」等に食物アレルギーが有るとして、申立人はアレルギー体質であることを申告した。
また、「造影剤使用に因り体に異常が出た事実及び吐き気発現」の事実について、4月30日実施のCT検査の際の造影検査に関する問診票に記載した(乙A1号証の28、287頁、甲A68号証の2)。
なお、本件病院入院前に造影剤を使用しこれにアレルギー症状を惹起した事実があり4月30日の造影検査に関する問診票にこれを記載した時系列経緯がある。
(2)申立人は食物アレルギー体質及び造影剤に対し体に異常が出る体質であることを証明する証拠である書証がある。
よって、これら書証に記載どおりの事実を認めるべきであるが、これら書証を排斥する理由を示していないことは、民訴法253条1項3号違反である。
3.民訴法149条違反
 4月30日、右膝MRSA感染を認識・把握し、かつ5月1日、薬剤アレルギーを認識・把握し、播種状紅斑丘疹型薬疹及び急性汎発性発疹性膿疱症(膿疱型)と診断した院内感染対策指導医 M医師は、これらを重篤化させるMRSAに耐性のペニシリン系ビクシリンを本件第2手術後まで継続投与を容認した。
薬疹の原因薬剤であるペニシリン系ビクシリン投与を即時中止せず、ステロイドパルス療法(ステロイド投与)を必要とするほどまでに薬疹を重篤化させ、皮膚潰瘍及び顔面を除く全身の落屑にまで至らしめた(乙A1号証の44頁、乙A2号証の3頁、甲A91号証、甲B40号証)。
よって、原審は、釈明権を行使し、この矛盾を指摘し事案を解明すべきであった。原審がこのような措置に出ることなく、セファゾリンが奏功しない時点である「4月27日」にバンコマイシンを投与すべきであり、ペニシリン系ビクシリンを投与すべきではなかった主要事実についての申立人の主張を排斥したのは、釈明権の行使を怠り、民訴法149条違反である。
4.判例違反
(1)ペニシリン系ビクシリン添付文書の【使用上の注意】には、セフェム系抗生物質に対し、過敏症の既往歴のある患者やアレルギー症状を起こしやすい体質を有する患者には慎重投与することが記載されている(甲B75号証)。
(2)セファゾリンセフェム系)投与後、申立人は既に同剤にアレルギー症状(薬物性肝障害・薬疹)を呈しており、かつアレルギー症状を起こしやすい体質である。
また、「化膿性膝関節炎の疑い」の場合に使用する抗菌薬は、「セファゾリン」又は「バンコマイシン」のいずれかに限定される。
よって、ビクシリン添付文書の使用上の注意事項に従わない「特段の合理的理由」を認めない。
(3)したがって、ペニシリン系ビクシリン投与を容認した原判決は、添付文書違反について判示した最高裁判所第3小法廷平成8年1月23日(民集第50巻1号1頁)に違反する。
5.民法415条の解釈適用の誤り
 抗菌薬投与に関する問診を実施する注意義務があるところこれを怠り、また、アレルギー体質である旨を申告した申立人に対し、抗菌薬投与後の経過観察を十分に行うこと等の指示等をせず、アレルギー症状(薬物性肝障害・薬疹)発現後も、原因薬剤であるペニシリン系ビクシリン即時投与中止をしなかったことについて注意義務違反を認めない原審の判断には、診療契約上の問診義務、経過観察義務及び注意義務に関し、民法415条の解釈適用を誤った違法がある。
6.民法709条解釈適用の誤り
 薬疹を認めた場合には、原因薬剤を即時中止すべきであるところ、これを中止せず、そればかりか薬疹を重篤化させるMRSAに耐性のペニシリン系ビクシリンを投与し続け、MRSA感染中にステロイドパルス療法(ステロイド投与)を必要とするほどの重篤な薬疹、皮膚潰瘍及び顔面を除く全身の落屑にまで至らしめ、MRSA感染症に対するバンコマイシン投与という適切な医療行為を受ける権利を侵害した。この権利侵害を認定しない原審の判断には、民法709条の解釈適用を誤った違法がある。
第6 小括
 以上によれば、問診義務違反及び経過観察義務違反について判断をしていないかまたはこれを否定した一審判決を是認した原判決は、最高裁判所第3小法廷平成16年9月7日判決(集民第215号63頁)と相反する判断であり、民訴法149条、民訴法247条、民訴法253条1項3号、最高裁平成8年判決に違反し、民法415条、民法709条の解釈適用を誤った違法があり、これらの法令違反の結果、審理の尽くされていない部分が存在し、その部分に対する判断が欠けることになるので、理由不備の違法があり、この違法は原判決の結論に影響を及ぼすことが明らかである。
第6章 判例違反(6)
第1 はじめに
 本件第1手術と右膝障害の結果との間の因果関係について判断をしていないかまたはこれを否定した一審判決を是認した原判決は、因果関係に関する法則の解釈適用について判示した最高裁判所第3小法廷平成9年11月28日判決(集民第186号269頁)と相反する判断があり、法令の解釈に関する重要な事項を含むものであるから、上告受理を求める(上告受理申立て理由7)。
第2 原判決の問題
 本件第1手術と右膝障害の結果との因果関係について判断をしていないかまたはこれを否定した一審判決を是認した原判決の判断に誤りがある。
第3 最高裁判所判例が判示した「因果関係に関する法則の解釈適用」について
 最高裁判所第3小法廷平成9年11月28日判決(集民第186号269頁)は、「因果関係を是認し得る高度の蓋然性を認めるに足りる事情があるものということができ、他に明らかにその原因となった要因が認められない以上、経験則上、この間に因果関係を肯定するのが相当であると解される。」と判示した。
第4 小括
1.レセプトに、「入院後発症傷病名MRSA関節炎」及び診断群分類決定票に、「後発疾患MRSA関節炎」と明記があることから、本件病院入院前MRSA関節炎に罹患していないこと及び本件病院入院後にMRSA関節炎に罹患したことを証明する証拠がある(甲A55号証、甲A27号証、甲B164号証、甲B165号証)。
なお、原審にて、本件病院入院後MRSA関節炎に罹患した証拠となる書証を新たに提出し、本件病院入院後にMRSA関節炎に罹患し、本件病院入院時にMRSA関節炎に罹患していなかった主要事実を主張したことに対し、判断の遺脱があることについては第Ⅳ部にて述べる。
2.4月30日、UK医師は右膝MRSA感染を認識・把握しておきながら、バンコマイシンを投与せず、また、バンコマイシンを投与しないことに因るMRSA感染増悪を認めこれを証言した。自白である(U証人調書32、34頁)。
3.UK医師は、ステロイド投与に因るMRSA感染増悪を認める内容を証言した。自白である(U証人調書38頁)。
4.UK医師は、6月11日、右膝MRSA感染が陰性化しておらず治療の途中であり十分治療終わっていない状態であることを証言し、バンコマイシン継続投与の必要性を認識しておきながら、バンコマイシンを継続投与しなかったことが、右膝障害の原因であると証言した。自白である(U証人調書19、20、40頁)。
5.以上のとおり、本件病院入院時、申立人は右膝MRSA感染しておらず、膝関節内は、「無菌」であることからすれば、本件第1手術後MRSA感染し、MRSA感染判明後もバンコマイシンを投与しないことに因りMRSA感染増悪をきたし、ステロイド投与に因る更なるMRSA感染増悪を惹起し、本件病院退院時バンコマイシン継続投与すべき病態にあるにもかかわらず、本件病院医師らがこれを怠った結果、右膝障害の結果に至った。
したがって、本件第1手術と右膝障害の結果との間に因果関係を是認し得る高度の蓋然性を認めるに足りる確定事実があり、他に明らかにその原因となった要因が認められない以上、経験則上、この間に因果関係を肯定するのが相当である。
よって、これを否定した一審判決を是認した原判決は、最高裁判所第3小法廷平成9年11月28日判決(集民第186号269頁)と相反する判断がある。
第5 法令の解釈に関する重要な事項を含んでいること
1.憲法13条違反
(1)4月24日、本件病院入院時、UK医師は、当日判明の検査結果である「滑膜炎」及びグラム染色陰性結果を申立人に知らせず、故意にこれらの検査結果を隠蔽した。これは説明義務違反であり、憲法13条違反である。
(2)6月11日、HN医師は、申立人及びその家族らに対し、化膿性膝関節炎は良くなっている。関節内に菌はないと説明した。
しかし、UK医師は、6月11日、右膝MRSA感染は陰性化しておらず、バンコマイシン継続投与が必要な状態にあったことを証言し、自白した。
よって、HN医師は、申立人及びその家族らに対し虚偽の説明をした。
つまり、本件病院医師らは、申立人らに対し正確な病状及び必要な治療方法を説明しなかった。これは説明義務違反であり、憲法13条違反である。
2.民訴法179条違反
(1)本件第2手術の説明及び5月1日の造影MRIの検査の有無について、UK医師は、「私はしていません。私はしていませんが、受け持ちがしたのかどうかは私には分かりません。」と証言し、本件第2手術の説明及び5月1日の造影MRIの検査説明をしていないことを認めた。自白である。
本多知成裁判長もこれを確認した(U証人調書52頁)(下線は申立人による。)(平成27年4月29日付控訴理由書73頁)。
(2)よって、原判決が「翌5月1日、患者及び家族への説明や検査を行った上で」と認定することは民訴法179条違反であるから、適法に確定された事実ではない(民訴法321条1項)。
そして、原審は、前記認定を前提としたうえで、「本件第2手術を実施したものであり、その実施が遅延したものとは認められず、また、控訴人を他の病院へ転送したとしても、手術の実施が早まったとは認められないから、控訴人の当該主張も採用することができない。」と判断しているのであるから、この判断にも違法がある。したがって、転医・転送義務違反がある。
(3)また、本件第2手術説明同意書は偽造された。これはUK医師の証言から明らかである。本件病院医師らは、大腿骨内側顆を一切の説明なく約5cm切開を加えたのである(乙A1の57頁、甲A38号証)。
3.民訴法151条1項5号違反
(1)申立人は、鑑定申出書(平成26年8月25日付、平成27年4月29日付)を提出したがいずれも排斥された。しかし、手続保障の観点から争点に関する判断にとって重要性を有する専門的知見について鑑定実施が望まれる。
(2)ところで、右膝MRSA感染を認識・把握した4月30日当日に、本件第2手術を直ちに実施しないことについて、UK医師は、「4月30日に手術をそのままするのか5月1日にするのか、そこの1日で何かが大きく変わることはないと思います。」と証言した(U証人調書34頁)(下線は申立人による。)。
しかし、「何」が「大きく変わることはない」のかについて審理が尽くされていない。審理不尽である。
(3)そこで、右膝MRSAの菌数と本件第2手術開始遅延との因果関係について詳細に検討する必要がある。
4月30日、菌数「06」とあることから、MRSA菌数は「1,000,000」個である(甲A34号証)。①4月30日、右膝関節内にMRSA菌数100万個を認めておきながら、②MRSAを増殖させるMRSA耐性のペニシリン系ビクシリンを継続投与し、③不要なドレーンチューブを留置し続け(バイオフィルム産生の原因)、④水分摂取制限下においてビーフリード(糖分等)添付文書を無視して過剰投与し、本件第2手術開始45分前の血糖値を「261」にまで上昇させ、⑤5月1日、ステロイドパルス療法を実施し(複数の医師らが指摘)、⑥本件第2手術開始時刻である5月1日23:45まで右膝MRSA感染症に対する一切の治療を実施しなかったことに因る右膝MRSA感染増悪を医科学的・統計学的・客観的に正確に数値解析する必要がある。
(4)そのためには、整形外科医、感染症科医、内科医、薬剤師、臨床検査技師その他必要に応じて医学統計解析法の専門家の学識経験に基づく説明を聞くべく鑑定を命ずることが有益である。
裁判所は、鑑定を命じないと訴訟関係が明瞭にならない場合、釈明処分として鑑定を命ずることができるから、これを実施しなかったことは民訴法151条1項5号違反である。
4.民法709条の解釈適用の誤り
(1)治癒可能性の侵害
 バンコマイシンMRSA関節炎に対する有効率は、「100%」である。
4月30日、右膝MRSA感染を認識・把握時点にて、バンコマイシンを投与開始せず、本件第2手術を直ちに実施しなかったことによって、申立人の「治癒可能性を奪った」ことは明らかである。治癒率をもった可能性は法的保護に値する利益である(甲B66号証)。
(2)以上のことから、治癒可能性の侵害及び適切な治療を受ける権利を侵害されたことによって被った損害を賠償すべき不法行為責任を負うものである。これを認定しない原審の判断には、民法709条の解釈適用を誤った違法がある。
5.民法645条の解釈適用の誤り
 4月24日本件病院入院時の説明義務違反及び本件病院退院にあたり6月11日の説明義務違反がある。
よって、原審の判断には、診療契約上の説明義務について民法645条の解釈適用を誤った違法がある。
6.医師法(昭和23年7月30日法律第201号)23、24条違反
 6月11日時点において、右膝MRSA感染が陰性化していないこと及びバンコマイシン継続投与の必要性を認識しているのであれば、申立人に説明し、これをカルテに記載すべきである。
しかし、これについて説明をしなかったことは、医師法23条違反であり、また、カルテに記載がないことは医師法24条違反である。
7.医師法施行規則(昭和23年10月27日厚生省令第47号)23条違反
 6月11日のカルテには、右膝MRSA感染中であること及びバンコマイシン継続投与の必要性について記載がない。そればかりか、同日HN医師は、「化膿性膝関節炎はよくなっている。菌は関節内にない。骨髄炎になるかもしれないのでザイボックスを服用する」旨をカルテに記載した。
これは事実と異なるものであり、診療録に記載すべき「病名及び主要症状、治療方法(処方及び処置)」を規定する医師法施行規則23条違反である。
8.医療法(昭和23年7月30日法律第205号)1条の4第1、2項違反
 6月11日時点において、右膝MRSA感染中でありバンコマイシン継続投与の必要性を認識・把握しておきながらこれを実施せず、ザイボックスを処方したことは、「良質かつ適切な医療を行う」ことを規定する医療法1条の4第1項違反であり、右膝MRSA感染中であることを及びバンコマイシン継続投与の必要性を申立人に説明しなかったことは、「適切な説明を行う」ことを規定する同法1条の4第2項違反である。
9.感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(平成10年10月2日法律114号)5条違反
 6月11日時点において、右膝MRSA感染に対する良質かつ適切な医療であるバンコマイシン継続投与を実施せず、また、右膝MRSA感染中であること及びバンコマイシン継続投与の必要性があることについて申立人に説明しなかったことは、「医師等の責務」について規定する感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律5条違反である。
第6 小括
 以上によれば、本件第1手術と右膝障害の結果との間の因果関係について判断をしていないかまたはこれを否定した一審判決を是認した原判決は、最高裁判所第3小法廷平成9年11月28日判決(集民186号269頁)と相反する判断があり、憲法13条、民訴法179条、民訴法151条1項5号、医師法23、24条、医師法施行規則23条、医療法1条の4第1、2項、感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律5条に違反し、民法709条、民法645条の解釈適用を誤った違法があり、これらの法令違反の結果、審理の尽くされていない部分が存在し、その部分に対する判断が欠けることになるので、理由不備の違法があり、この違法は原判決の結論に影響を及ぼすことが明らかである。
第7章 判例違反(7)
第1 はじめに
 骨の感染、骨髄炎罹患、右膝半月板消失・右膝前十字靭帯ほぼ消失、ARDS発症を認定判断していないかまたはこれを否定した一審判決を是認し、看護記録改竄・隠蔽及び診療録の不備を否定した原判決の判断は、最高裁判所第1小法廷昭和32年10月31日判決(民集第11巻10号1779頁)及び最高裁判所第3小法廷昭和59年3月13日判決(集民第141号295頁)と相反する判断があり、法令の解釈に関する重要な事項を含むものであるから、上告受理を求める(上告受理申立て理由8)。
第2 最高裁判所が判示した「書証排斥」及び「書証の証明力の排斥」に関する違法について
1.最高裁判所第1小法廷昭和32年10月31日判決(民集第11巻10号1779頁)は、書証について何ら首肯するに足る理由を示すことなく、ただ漫然とこれを採用できないとしたのは審理不尽、理由不備の違法があると判示した。
2.最高裁判所第3小法廷昭和59年3月13日判決(集民第141号295頁)は、特段の事由を明らかにすることなく、書証の証明力を排斥した判断に審理不尽、採証法則違反、理由不備の違法があると判示した。
第3 原判決の問題
「骨の感染」、「骨髄炎罹患」、「右膝半月板消失・右膝前十字靭帯ほぼ消失」、「ARDS発症」、「看護記録改竄・隠蔽」及び「診療録の不備」を証明する証拠となる書証である文書・画像について理由を示すことなく排斥し、また、これら書証の証明力を排斥した原判決は、最高裁判所第1小法廷昭和32年10月31日判決(民集第11巻10号1779頁)及び最高裁判所第3小法廷昭和59年3月13日判決(集民第141号295頁)と相反する判断がある。
第4 事実及び書証
1.骨の感染の事実
「骨の感染」であることは、本件病院医薬品適正使用ラウンド(2009.5.27付、2009.6.3付)の「     」欄に記載がある(甲A22号証)。
2.5月18日骨髄炎罹患の事実
「5月18日骨髄炎に罹患」している事実は、5月14日撮影右膝造影MRI画像から明らかである(甲A60号証の1~4)。
3.右膝半月板消失・右膝前十字靭帯ほぼ消失の事実
「右膝半月板消失・右膝前十字靭帯ほぼ消失」している事実は、5月14日撮影右膝造影MRI画像から明らかである(甲A60号証の1~4)。
4.ARDS発症の事実
「ARDSを発症」している事実は、4月28日、5月4~7日撮影胸部レントゲン画像から明らかである(甲A62号証、甲A63号証、甲A64号証、甲A65号証、甲A66号証)。
5.6月17日骨髄炎罹患の事実
 6月17日、湘南東部総合病院整形外科受診即日入院当日、MRI検査及びレントゲン撮影検査が実施され、NH医師は申立人及びその家族らに、「骨髄炎に罹患しており、膝関節、大腿骨及び脛骨が損傷している。」ことを説明した。
 6月17日に、骨髄炎に罹患していることは、同医師が診断書に、「右化膿性膝関節炎(MRSA)骨髄炎」と明記し、同傷病名を同日申立人(本人)に告げた旨を記載したことから明らかである(甲A78号証)。
6.看護記録改竄・隠蔽の事実
(1)「看護記録改竄・隠蔽」の事実は、平成22年11月5日、申立人元代理人NS弁護士が申立人元代理人KJ弁護士に電話聴取しその内容を「電話聴取書」に記載した。同聴取書には、「当職は、北里大学病院の医事課に電話して、「医療記録の全てが送付されていないようだ。レントゲン画像や看護記録の一部がないので送付してほしい。」と告げました。しかし、医事課の担当者から、「それで全部です。」と言われてしまいました。この返事を聞いて、当職は、証拠保全の必要性を感じました。実際、当職の当日のメモには「証拠保全の必要」との記載があります。」と記載がある(甲C20号証の1)。
(2)申立人元代理人HC弁護士及び申立人元代理人NS弁護士らは、証拠保全申立書7頁(平成22年11月2日付)に、「看護記録に関しては、手術当日に関する313頁と314頁の間に意図的に抜粋された形跡がある(疎甲7)。」と明記した(甲C11号証)。
(3)申立人元代理人HC弁護士及び申立人元代理人NS弁護士らは、補充書面2頁(平成22年11月10日付)に「看護記録に至っては、5月1日午前2時から5月3日午前2時30分までの記録が全て抜き取られている(疎甲7の8頁と9頁の間が抜けている)。しかも、看護記録が抜けている5月2日は、第2回デブリドマン手術が行われた日である。開示された看護記録にあえて通し番号が振ってあることからみても、意図的に抜粋した可能性が高いと言わざるを得ない。」と明記した(甲C11号証)。
(4)要するに、「看護記録改竄・隠蔽」の事実は、申立人元代理人KJ弁護士、同HC弁護士、同NS弁護士3名らによる作成文書又は聴取文書である「証拠保全申立書」、「補充書面」及び「電話聴取書」に明記されている(甲C20号証の1、甲C11号証)。
(5)以上のことから、看護記録改竄・隠蔽は明らかである。
7.診療録の不備の事実
(1)本件病院入院後、右膝レントゲン撮影を実施するも、同撮影検査結果の所見記載が一切ない。
(2)5月1日、右膝造影MRI検査結果の所見記載がない。
(3)5月上旬、「骨髄炎」罹患の記載がない(甲A87号証の6)。
(4)5月18日TDMについて、T薬剤師はH先生へとし、「血中濃度および治療計画の要点をカルテに記載してください。記載することで血中濃度の保険請求可能となります(血中濃度だけでは保険請求できません)。」と記載がある。
HN医師は血中濃度すら記載しておらず治療計画の要点も記載していない。しかし、保険請求はしている。
また、同医師は、TDMに「診断名」を記載していない。
要するに、「骨髄炎」の記載がない(乙A1号証の97頁、甲A54号証)。
(5)6月12日、抜糸(6月1日縫合部位)をした記載がない。
第5 法令の解釈に関する重要な事項を含んでいること
1.民訴法253条1項3号違反
 右膝MRI画像、胸部レントゲン画像、診断書、証拠保全申立書、補充書面、電話聴取書、医薬品適正使用ラウンド、カルテ記載等の画像及び文書である書証について、原審は、書証と反対の事実を認定し、認められるべき証拠である書証を排斥した。原審がこれら書証を排斥する合理的な理由を解明せず、特段の理由を説示しないことは民訴法253条1項3号違反であり、理由不備の違法がある。
2.民訴法247条違反
(1)右膝MRI画像、胸部レントゲン画像、診断書、証拠保全申立書、補充書面、電話聴取書、医薬品適正使用ラウンド等の書証を証拠として採用しないことは、採証法則に反する。よって、採証法則に反する事実認定は違法である(民訴法247条)。
この結果、審理が尽くされておらず審理不尽の違法がある。
(2)本件第1手術後右膝MRSA感染し、右膝レントゲン撮影検査を実施していたのであるから、当然これに対する所見をカルテに記載するという常識的経験則がある。
ところが、これについてカルテに一切記載がない。「診療録の不備」を認定しない原審の判断には、常識的経験則に反する違法がある(民訴法247条)。
3.憲法13条違反
(1)看護記録改竄・隠蔽は、証明妨害行為であり説明義務違反である。これは憲法13条違反である。
(2)カルテ虚偽記載
 6月11日、右膝MRSA感染が陰性化しておらず、バンコマシン継続投与の必要があったにもかかわらず、HN医師が、「化膿性膝関節炎は今のところよくなっていて菌も関節内にはないが、骨髄内に入って骨髄炎になるかもしれないのでザイボックスという抗MRSA内服薬を開始した。」とカルテに記載したことは事実と著しく異なる。これは説明義務違反であり、憲法13条違反である。
(3)カルテに事実無根の記載
 カルテに事実無根の記載がある。6月11日、「自殺未遂」とのカルテ記載は、事実無根である。記載者「み」の氏名は不明である。虚偽記載である「自殺未遂」を「口実」としたザイボックス処方はきわめて重大な問題である(U証人調書19、40、52頁)。
 なお、UK医師は、「自殺未遂」について、「あります。」と虚偽の証言をし、また、HN医師は、「(自殺未遂について)間違えていません。ー中略ー間違えていません。」と虚偽の証言をした(U証人調書40、52頁、H証人調書13、23頁)。
虚偽の証言だけでも問題であるところ、これにより、ザイボックス処方の「口実」となっていることは、きわめて重大な問題である(下線は申立人による。)。
4.民法709条の解釈適用の誤り
 看護記録改竄・隠蔽は、証明妨害行為であり、これは不法行為である。よって、看護記録改竄・隠蔽を認定判断しない原判決は、民法709条の解釈適用を誤った違法がある。
第6 小括
 以上のことから、骨の感染、骨髄炎罹患、右膝半月板消失・右膝前十字靭帯ほぼ消失、ARDS発症、看護記録改竄・隠蔽及び診療録の不備を証明する証拠となる書証について理由を示すことなく排斥し、また、これら書証の証明力を排斥した原判決は、最高裁判所第1小法廷昭和32年10月31日判決(民集第11巻10号1779頁)及び最高裁判所第3小法廷昭和59年3月13日判決(集民第141号295頁)と相反する判断があり、憲法13条、民訴法247条、民訴法253条1項3号に違反し、民法709条の解釈適用を誤った違法があり、これらの法令違反の結果、審理の尽くされていない部分が存在し、その部分に対する判断が欠けることになるので、理由不備の違法があり、この違法は原判決の結論に影響を及ぼすことが明らかである。
第Ⅲ部 判例のない法令解釈につき最高裁判所の判断の必要性
第1 はじめに
 患者が死亡しても構わないとして治療をしない事件に関する最高裁判所判例は見当たらない。また、本件病院医師らの申立人に対する「医療の名に値しない」主要事実認定にあたり、証拠の採否に関して民訴法181条1項の解釈適用を誤った違法がある。よって、上告受理を求める(上告受理申立て理由9)。
第2 原判決の問題
1.原判決は、本件第2手術の持続洗浄開始時期について、「後記のとおり争いがある。」とし、事案を解明していない(判決2頁)。
2.本件第2手術直後から4時間もの間、持続洗浄を実施しなかった主要事実認定にあたり、証拠の採否に関して民訴法181条1項の解釈適用を誤った違法がある。
3.本件第2手術直後から持続洗浄を実施しなかった主要事実について、UK医師は虚偽の証言をし、虚偽の証言が判決の証拠となっている(一審判決42頁、U証人調書39頁)。
第3 最高裁判所が判示した「唯一の証拠方法の法則」
 最高裁判所第1小法廷昭和53年3月23日判決(集民第123号283頁)及び最高裁判所第2小法廷平成20年11月7日判決(集民第229号151頁)は、争点となっている特定の主要事実を立証するために当事者が申し出た唯一の証拠方法は特段の事情がない限り必ず取り調べなければならないとする証拠法則、すなわち、唯一の証拠方法の法則を判示した。
第4 医療の名に値しないこと
1.本件第2手術直後の5月2日午前4時50分から午前9時頃まで、Y看護師及びO看護師らが、申立人をベッドに寝かせず、床上約160cmの高さに設置した担架状様に放置した事実がある。
2.本件第2手術直後から持続洗浄を実施しないことに因る敗血症等を原因とする「死の恐怖」及び床上約160cmの高さからの「落下の恐怖」に「4時間」もの間曝露させた。申立人の容態はきわめて重篤な病態にあった(CRP:29.36)。
3.本件第2手術直後から持続洗浄を実施しないことに因る「死の恐怖」を恐れ、申立人は、Y看護師及びO看護師らに持続洗浄を直ちに開始するように要請したが、両看護師らは、「  さんは治療の対象になっていない。持続洗浄は実施しないことになっている。治療をしないことになっている。」と言明した事実がある。
第5 医療の名に値しない事実認定に違法があること
1.本件第2手術後から4時間もの間、申立人が放置された状況を証明するために、Y看護師及びO看護師らの証人尋問を実施すべく、申立人は証拠申出書(平成26年6月16日付、平成27年4月29日付)を提出した。これは、唯一の証拠方法である。
2.原審は証拠申出書を排斥し、本件第2手術直後から4時間持続洗浄を実施しなかった主要事実を認定していないかまたは「4時間、持続洗浄が実施されなかったものと認めることはできない。」と認定判断した一審判決を是認している。その主要事実認定に違法がある(一審判決43頁)。
3.要するに、本件第2手術から4時間もの間、申立人が放置された主要事実について、証拠の採否に関して民訴法181条1項の解釈適用を誤った違法がある。違法な認定を前提としたうえでの判断にも違法がある(民訴法321条1項)。
第6 UK医師は虚偽証言をしていること
 本件第2手術直後の持続洗浄の有無に関し、160cmの高さに設置された担架状様に放置された主要事実についてUK医師は、「事実ではありません。」と虚偽の証言をし、かかる事実について同医師は、「あり得ないと思いますよ。」と虚偽の証言をした(U証人調書39頁)(下線は申立人による。)。
第7 法令の解釈に関する重要な事項を含んでいること
1.憲法11条違反
 本件第2手術直後のきわめて重篤な病態にあった申立人をベッドに寝かせず、床上約160cmに設置した担架状様に放置することは、非人道的行為であり、人間の尊厳を著しく侵すものである。これは、憲法11条違反である。
2.憲法13条違反
 5月1日、午前、UK医師は、「右膝内から菌が出ている。緊急手術を実施し、持続洗浄を実施して膝の中を洗い流さないと死亡する。」と説明したことから、本件第2手術直後から持続洗浄を実施しないことは、申立人の生命を著しく脅かすものである。本件病院医師らは、死亡する危険性を判っていながら持続洗浄を実施しなかった。
申立人の生命存続そのものを否定することは、憲法13条違反である。
3.民訴法181条1項の解釈適用の誤り
 争点となっている特定の主要事実を立証するために申立人が申し出た唯一の証拠方法を却下することは、民訴法181条1項の解釈適用を誤った違法がある。
4.民訴法321条1項違反
 唯一の証拠の申出を排斥して、申立人の主張事実を認めることができないと認定したことは、適法に確定された事実ではない。民訴法321条1項違反である。
第8 小括
1.最高裁判所第1小法廷平成17年12月8日判決(集民第218号1075頁)の補足意見は、「医師の検査、治療等が医療行為の名に値しないような例外的な場合には、「適切な検査、治療等の医療行為を受ける権利を侵害されたこと」を理由とし損害賠償責任を認める余地がないとはいえない。」と示した。
2.本件第2手術直後から4時間もの間、申立人が死亡しても構わないとしてUK医師が持続洗浄を実施しなかった。
そして、前記両看護師らは重篤な病態にあった申立人に対し持続洗浄を実施しないことに因る敗血症等を原因とする「死の恐怖」及び床上約160cmの高さからの「落下の恐怖」に「4時間」もの間曝露させた。
UK医師及び両看護師らの行為は、「医療の名」に値しない。
3.このような事件について、最高裁判所判例はいまだ見当たらない。よって、御庁が判断される必要がある。
北里大学病院医療過誤裁判 東京地裁から最高裁まで 第Ⅲ章ー2につづく。